朝に祈る
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両側に3列ずつ、通路がひとつだけの中型機から降り立ち、ボーディングブリッジに入れば、すぐにカラッとした暑さが肌に纏わり付いた。刺すような寒さの欧州から一転、バンコクを経由して常夏の国へ来ていた。


「おお…なんか山がかわいい」

「ほやの」


夕暮れの空を反射する深い緑の山々は丸みを帯びていて、まるでこの地の人々の気性を表しているかのようだった。

アルレシアとオランダが年末年始の休暇を利用してやって来たのは、ラオス人民共和国の世界遺産の街、ルアンパバーンだった。欧米における最も訪れたい国第一位に選ばれたラオスの中でも最も有名な観光地である。

アジアでは町ごと世界遺産となることは稀であり、それだけでこの街の文化的景観に価値が高いと分かる。
ボーディングブリッジを降りると屋外の廊下を一瞬歩くため、乾いた心地良い暑さを涼しい風が吹き抜ける。

そしてエスカレーターを降りると、そこはすぐに入国審査だった。小さな空港なのだろう。
アルレシアたちは他の白人たちとともにビザの列に並ぶ。機内で書いた書類を持って、それを提出して写真を撮るのだ。


「直接審査行っとんのはASEANだけやないんやな」

「あぁ、日本人とかだろ。あいつん家のパスポートでビザが必要な国のが少ねえ」

「金でどもならんことは嫌いやざ」

「ここ共産主義国だぞ……」


イギリスとともに資本主義を生み出す役割を担っただけある。金にものを言わせられないことに腹立っているようだった。
しばらく列に並んでビザを取得してから、ようやく入国審査を抜ける。ターンテーブルから受託手荷物を受け取ってアライバルホールに出た。ホテルからはタクシーを呼んである。
すぐに名前を書いた紙を持った男性が見付かり、声を掛けてともに車へ向かう。現地通貨であるキップをキャッシュカードで下ろしてから男性について駐車場を進み、ボロボロの車に乗り込んだ。


「料金は決まってるっぽい」

「メーターあらへんのにか」

「価格交渉とか値引きって競争生むからな」

「ほうか……ほれは楽かもしらんな」

「悪くねえよな、バンコクよりマシ」


ラオスでは比較的、競争社会を生み出す要因となる値下げ合戦などを起こさないよう、料金が決まっていることが多い。恐らく、相場というものがかなり強く作用し固定されている。
それは拙い英語の運転手と交渉する必要がないということでもあるため、楽ではあった。

そうして車で15分ほどしてからリゾートホテルに辿り着き、料金を払ってからカウンターに向かう。少し拙い英語でチェックインをしてもらってから部屋に通され、ポーターにチップを渡して下がらせる。ようやく二人きりとなると、オランダはアルレシアの肩を抱いてシッティングスペースのソファーに並んで座った。
東南アジアではまだまだ同性カップルに対する風当たりが強く、犯罪となることもある。人前で触れ合うことは控えていた。
普段からベタベタしているというわけでもないのだが、やらないこととできないことは違う。できないというストレスは、確かにあった。


「晩飯はどないする」

「んー、ホテルのでいんじゃね。つか腹減った」


オランダにもたれて肩を抱く手の指先を弄りながら答える。ここに来るのに使ったバンコクエアウェイズの機内食があまりに不味かったため食べていない。まさかここまで不味いと思わず、バンコク・スワンナプーム空港のラウンジで食事を取らなかったのだ。

しばらくはこのプール付きのホテルでゆっくりする予定のため、さっさと食事を済ませて今日はもう休んでしまいたい。オランダも同じようで、「ほやな」と頷いた。


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