家族でなくとも
−1
ドイツ南部、バイエルン州の古都バンベルク。
バイエルンの真珠と称されるこの街は、戦火の激しかった南部の要衝に位置しつつもその戦火を免れた奇跡の街である。そのため、市街地そのものが世界遺産に登録されている。
川に向かって突き出すように作られた独特の市庁舎が有名だ。
人口10万人で大都市とされるドイツにあっても、この街は大きな街ではない。しかし、地元ドイツの人にとっても、また、よくドイツを知る観光客にとっても、このバンベルクは屈指の魅力的な街だとされている。
そんなバンベルクのクリスマスマーケットに行こう、とアルレシアはプロイセンに誘われた。ロシアとポーランドに分割されたプロイセン地方ではなく、またブランデンブルク選帝侯領だった地域でもなく、なぜかバイエルンの街に誘われるとは思っていなかったアルレシアである。
しかし、つい数年前に国交を回復したばかりのアルレシアにしても、観光地として有名なドイツ南部のこの街は見ておきたい気持ちもあったので、プロイセンの誘いに乗ったしだいである。
と言いつつ、一応恋人であるプロイセンに誘われたのだから、どこであっても行っただろうが。
プロイセンとミュンヘン国際空港で待ち合わせ、そこからミュンヘン中央駅に出て電車に乗り、ニュルンベルクで乗り換えてバンベルクの街へ。乗り換えを含めなくても2時間以上かかった。途中のニュルンベルクもクリスマスは有名だ。
「さ、寒い…」
「そうか?」
バンベルク駅に着いて旧市街に入ると、いよいよ寒さが際立った。空港から中央駅、そして電車内は空調(といっても駅のホームは普通に寒い)が効いていたのでそれほど感じなかったが、こうして街に降り立つと、極寒のドイツ南部の寒さを見せつけられた。
慣れているプロイセンはけろりとしているが、アルレシアはイギリス同様、ドイツほど寒くならない。
「ドイツの大部分より緯度北にあんのにな」
「北海は偉大だからな」
北海に注ぎ込む暖流のおかげで温暖な気候が保たれるのだ。とはいえ降雪くらいはあるし、結構風も強く荒れることが多い。それでも、内陸のドイツ南部に比べればはるかに温かかった。
アルレシアはカシミア80%以上のマフラーや厚手のコートをきちんと着込んでいるが、アルレシアより薄そうな服を着たプロイセンより震えている。
「あれだろ、筋肉だろ」
「うるせぇな」
痛いところを突かれて、アルレシアはプロイセンに肘打ちをしておく。そうやって歩いて行くと、すぐに街はクリスマスの華やかな雰囲気に包まれた。
時間を合わせて夕方に着いたこともあって、雰囲気はとても良い。夕方と言っても、この時期の欧州は日が短く、すでに真っ暗だ。
バンベルクの街は、どこもかしこも飾られ、人々がマーケットや教会に向かって笑顔で歩いていた。あちこちから音楽が聴こえてきて、幻想的に感じる。
「…すごいな」
「だろ?バンベルクは音楽の街だからな」
交響楽団を有するバンベルクは、音楽の街としても有名だ。だからか、クリスマスともなると、市役所や教会、なんでもない通りなど至る所から聖歌隊のコーラスや楽団の演奏などが聴こえてきていた。
「ドイツん家のクリスマスマーケットっていうと、やっぱアウクスブルクのイメージあるけど…」
「そりゃアウクスブルクもいいけどよ、俺様ほどの通になるとバンベルクを推すな」
「ドイツ人ならってこと?」
「そうともいう」
同じくバイエルンの大都市アウクスブルクは世界的にクリスマスマーケットが有名だ。他にも、レーゲンスブルクやミュンヘン、ローテンブルクなど南ドイツは豊富な観光資源がクリスマスともなると格段に素晴らしくなる。
そんな中でも、ドイツの人々にとってもバンベルクのクリスマスは、規模こそアウクスブルクなどに劣っても、その古き良き雰囲気や独特な街並みなどから人気が高いという。ただ、ドイツ人はわりと生まれ育った街から出ないことも多く、地元への愛着が非常に強いため、自分の住む街を一番にする側面も強い。