家族でなくとも
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本当に素敵な街なのだが、アルレシアはそろそろ寒さが耐えがたくなってきた。陽が落ちるとさらに温度が下がる。天気予報で今日は特に寒いと言っていたので、恐らく今の気温は氷点下かもしれない。


「…プロイセン、」

「おう、寒そうだな」

「寒ぃわ!」


少し声が震えると、それだけでプロイセンは察したらしい。けらけらと笑うと、「ちょっと待ってろ」と言って近くのカフェに向かった。店頭に臨時コーナーが設けられていて、そこで何かを頼んでいた。
少しして戻って来たプロイセンは、アルレシアにプラスティックのカップに入った暖かいワインを渡してくれた。


「おら、Glüweinだ」

「あぁ、モルドワインな。ありがと」


グリューワイン(ヴァイン)とドイツ語で呼ばれる、温かいワインのことだ。ちなみにホットワインとは和製英語なので言わず、英語ではmulled wineと言う。
ワインにシナモンやオレンジピールなどの香辛料とシロップなどを入れて温めるもので、ホットカクテルの一種である。蒸気によって温めることでアルコールが飛ぶのを最小限にしており、アルコールが飛んでいると思って飲むと痛い目に遭う。


「プロイセンのなんか酒の臭いきついな」

「Glüwein mit Schuss、ラム酒足したやつ」

「うわ…」


それでも飛んでしまうアルコールを足すため、ラム酒など蒸留酒を混ぜるものだ。飲む気満々のプロイセンに引いた。
デンマークではグロッグ、フランスではヴァン・ショーと呼ばれるこのモルドワインは欧州のクリスマスには欠かせない飲み物だ。日本の家で年越しを経験した際には無料で甘酒なるものを配られたので、似たようなものだろう。ちなみにアルレシアは粒粒した感じが苦手だった。

それにしても、プロイセンは急にこうして気遣いをしてくれることが多い。言ってくれればいいのに、こうして雑にやってくるあたりは照れ臭いからだろう。不器用なところは、アルレシアにとってプロイセンの好きなところでもある。そういう不器用でもまっすぐな優しさが好きだった。


「…ほら、広場の方行くぞ」

「おー」


ワイン片手に進むプロイセンはどこか楽しそうで、クリスマスということを抜きにしても、きっと自分の国の最も美しいクリスマスをアルレシアに見せられることが嬉しいのだと察する。子供っぽいところがあるのもアルレシアとしては好きだな、と思える。
どうせなら、今日のプロイセンはリードしてくれる彼氏様なようなので、わがままを言ってみようという気になった。ドイツあたりがこれを聞いたら、「アルレシアは普段から我を通すだろう、セーフガード、うっ、頭が…!」となるだろう。


「プロイセン、俺あれ食べたい。ストル?」

「Stollenな。stol(ストル)はオランダ語だ」

「そうそう、シュトレン」

「あとこの時期のはChriststollen、オランダん家ならkerststol」

「へぇ」


シュトレン(本当は伸ばさない発音である)はドイツやオランダで食べられる一般的な菓子パンで、クリスマス仕様のものはそれぞれ「クリスマスの」という形容詞がついた名前で呼ばれる。ドイツ語ならクリストシュトレン、オランダ語ならケルストストルだ。
表面にまぶされた粉砂糖の白さが、幼子のイエスが布にくるまれる様に見えるということらしい。


「マクシミリアン広場のは工芸品だメインだけどどうする」

「どうせなら見たい」

「ん、じゃあそのあとシュトレン買いに行くか」


プロイセンは食欲が先行するアルレシアに少し呆れつつ、旧市街の中心広場であるマクシミリアン広場に連れて来た。ドイツでも有名な工芸品マーケットが開かれる。
人で賑わうマーケットを歩いていると、アルレシアは伝統工芸の木製人形に目を止めた。薄い金髪に青い瞳の人形と、銀髪赤目の人形だ。


「プロイセン見てこれ、俺らみたい」

「おっ、マジだ」

「俺買うわ」


まさにアルレシアとプロイセンそのものな人形2体をセットで購入する。観光地だけあって英語が通じて良かった。ニコニコとしたおばちゃんから人形を受け取ると、アルレシアはプロイセンに目を向ける。

視線で分かったのだろう、やはりプロイセンは少し呆れながら、「分かった、シュトレンな。分かったって」と言って笑った。


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