あの頃へ
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世界会議でまともな結論に至ったことなど今だかつてないのだが、強いて言うなら毎回「来るんじゃなかった」と思う。時間の無駄という意味なのだが、今回ばかりは、アルレシアは本気で怒りをぶつけたくなった。あのブリタニア・エンジェルとかいうふざけた変態天使に対してだ。
誰だって、目の前のどこか埃っぽく、馬の蹄の音がそこらじゅうに響き、木組みの住宅が無秩序に立ち並ぶ町並みを見ればそう思うだろう。
「…なぁ、今何年だ」
「おお、これはアルレシア様。今は1316年ではないですか、お忘れですか?」
通りかかった優しげな壮年はそう答える。その口から出た言葉は、中世後半を示す年号。
700年前の世界に、アルレシアはいた。
***
いつも通り荒れ模様となった世界会議は、いつも通り室内で各国がてんでばらばらに散らばって雑談に興じる状態になっていた。そんな中で、先進国組はやはりいつも通りの口喧嘩が繰り広げられていた。
そこで、いつもと違うことがあった。
フランスの、「みんな昔は可愛かったのに!」という言葉から、何がどうなったかアルレシアの幼少期の話になった。フランスを含め、誰も見たことがないからだ。最年長なのだから当然なのだが、フランスがどうしても見たいと駄々をこねだし、突如としてイギリスがブリタニア・エンジェルモードになり、文字通り"魔法にかけられた"。
ご都合主義もいいところで、かけた魔法は不充分で、しかも若干間違っていて、アルレシアは小さくなるのではなく、昔と入れ替わってしまったのだ。その上、昔と言っても幼少期ではなく、700年前。アルレシアの最盛期である。
こうして、先進国たちの目の前には、中世の甲冑に身を包んだ、あまり今と見た目の変わらないアルレシアが光とともに現れたのだった。
「……なんだ、ここ」
目を開けたアルレシアは、まず周りを見渡した。元に戻ったイギリス、期待して見ていたフランスはぽかんとしてしまう。
「おおお!めっちゃ懐かしい姿やんなぁ!アルレ!」
真っ先に我を取り戻したのはスペインで、昔懐かしい姿に駆け寄った。しかし、スペインがアルレシアの半径三メートル以内に立ち入った瞬間、アルレシアは目にも止まらぬ速さで剣を抜き、スペインの眼前に突き付けた。
その纏う雰囲気はひどく鋭利で冷たく、ともすれば失神してしまいそうなほどの恐怖を各国は感じた。それは、まだ自らの手で人を刺し殺していた時代特有の、本能的な生死の恐怖。
正面から殺気を浴びたスペインは、珍しく笑顔を凍らせた。
「……誰だ、貴様は」
「あ、え、えと、す、スペインや」
「あぁ?見たところ国のようだが、そんな輩いねぇぞ」
それを聞いて、フランスはハッとする。スペインを知らないということは、少なくともスペインが成立する1479年以前の知識ということだ。つまり、アルレシアは昔と入れ替わっている。さらにフランスは考えを巡らせ、悪いことになったと冷や汗を垂らす。なぜなら、15世紀以前のアルレシアはまさに絶頂期、その剣技の実力は非常に高く、しかも今よりも喧嘩っ早い。というより、中世の方が今よりもあらゆる意味で危険だったため、そうでなければ命取りだったのだ。
それに対して現代の国々は、特に先進国は戦争を10年以上やっていなかったり、やっても遠くから銃弾や砲弾を打ち込む形であったりと、接近戦など久しくやっていない。迂闊なことをすれば、大ケガでは済まない。
「あー…アルレシア?俺フランスだけど、分かる?」
「俺の知ってるフランスは髭を生やしたおっさんじゃねぇ」
「うぐっ…!」
面と向かって吐かれる暴言にフランスは崩れ落ちた。普通に傷付く。
「お、俺イギリスだけど!」
「イギリスだ?もっと可愛げあったぞ変態野郎」
「へ、変態…」
イギリスも事態の収拾に乗り出すも、フランス同様沈んだ。
「よーし、世界のヒーロー俺の出番だ!hello!アルレシア!」
「誰だお前」
「バカ、お前まだ見付かってすらいねぇよ!」
大航海時代はおろかルネサンスすらまだな時代から来たであろうアルレシアが、アメリカを知っているはずがなかった。アメリカも再起不能になる。
「お、おいアルレシア、俺んごどは覚えてっぺ?」
「デンマークに似てるけど、そんな農業臭くねぇぞ」
「んなっ!!」
「アルレ、俺は今も昔も、農業国家だべ…」
「ノルウェー…だったらもっと幼かっただろ、誰だおっさん」
「…っ!」
デンマーク、ノルウェーと北海の2人もやられた。すでに中世から知り合いの国々は若く遠慮のないアルレシアにライフをガリガリと削られてしまった。