穏やかな時間
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●現代のトマト一家
ヨーロッパに、最も輝かしい季節がやってきた。ほとんど日が差さない冬が終わり、逆に夜遅くまで日が沈まない初夏が訪れたのである。
街は華やぎ、緑が芽吹き、人々の表情も明るくなり、ロンドンではヌーディストのバイクレースで全裸の人々が自転車をめぐらす。あの国はEUを抜けても変わらないだろう。
そんな気持ちの良い日に、スペインから久しぶりに集まらないかという誘いがあった。やはりというか、メンバーはもとスペイン領だ。とはいっても、欧州の者に限るが。
たまたまベルギーがスペインの家に遊びに行くことにしていたようで、ベルギーが来ると聞いてロマーノもいつもはアポなしで行くくせにしっかりと行く宣言をしたため、どうせならとアルレシアとオランダにも声がかけられたらしい。
誘いのメールを見るとすぐにオランダから電話がかかってきて、行くかどうかの確認をされた。特に急ぎの予定はない日だしたまには、とアルレシアは行く旨を伝えると、オランダは「アルレが行くんなら行くさけ、ほう伝えておくんね」と言ってきた。
スペインとオランダの微妙な距離感が不思議だ。
そうして、初夏の柔らかな日差しが降り注ぐマドリードの郊外にある公園にやってきた。
小高い丘になっている草地に、すでにスペインとベルギー、ロマーノがいる。なんと、ポルトガルもいた。
そこにオランダと向かうと、真っ先にベルギーが手を振る。
「おにーちゃーん!アルレ兄ちゃーん!」
「おっ、アルレやーん!」
スペインも気づいて大きく手を振る。それに軽く手を挙げて返すと、オランダとともに緩やかな丘の斜面に座るスペインたちのところへ歩く。
近づいてい見ると、ベルギーは持参したのか、バゲットやワッフルが入ったバスケットを抱えていた。ピクニックのような感じなのだろう。
「おー、勢ぞろいやなぁ。アルレシアは相変わらずかぁええな」
加わった二人を見て、地面に横たわるポルトガルはのんきに笑う。アルレシアは最後のは聞かなかったことにした。
「ポルトガルが予定通りにいるとか珍しいな」
「ちゃうでアルレ、今日の朝にいきなりアポなしで来たんや。せやから一緒に来ただけで、たまたまやで」
「あぁ。示し合わせてないからちゃんといるのか」
「失礼やな〜」
どうやらスペインが誘ったわけではないらしい。きっと、そうやって時間を決めていなかったから、偶然にも一緒になれたのだ。どんなレアキャラだ、あぁポルトガルか、とひとりごちる。
「アルレシアも来るなんてな、仕事の鬼なのに」
「俺も驚いたで。ホンマ嬉しいわ〜」
そんなアルレシアに、ポルトガルの隣に座るロマーノがいつもよりは穏やかに声をかける。この穏やかな陽気のもと、ロマーノの毒とも言えない毒も鳴りを潜めているようだ。ロマーノの横に胡坐をかいているスペインものほほんと笑った。
もう少し働け、というオランダの圧は感じていない様子である。
「ちょうど落ち着いてるときだったからな。つか、ルクセンのがいつもなんかやってるだろ」
「あぁ、せやね、ルクセンは遅れて来る言うてたで…あ、ウワサをすれば!」
ベルギーが苦笑して話していると、ちょうどその話の人物であるルクセンブルクがやってきた。前髪が風に揺れて左目がちらちらと覗く。
「遅れてすみません」
「構わん、俺たちも今来たとこやざ」
オランダはストールを後ろになびかせて、ルクセンブルクを迎える。気を遣って今来たところ、なんてことは、少なくともアルレシアの前以外では言わないオランダだ。そのことはわかっているようで、ルクセンブルクもあまりすまなさそうにはしなかった。
「アルレ兄さんも来てたんですね、よかった」
「ウチもアルレ兄ちゃん来てくれて嬉しいわぁ〜」
「そ?可愛いこと言っても何も出ねぇぞ」
そう言いながら二人の頭を撫でると、スペインとポルトガルが不満げにする。
「やっぱアルレってネーデルラント組には甘いやんな」
「お前に同意するとかなかなかないで〜」
一言多いポルトガルにスペインは「お前はもー」とあまり気にせず苦笑した。