穏やかな時間
−2
「じゃあみんな揃ったことやし、お兄ちゃんたちも座ってぇな!」
スペインの隣に座るベルギーは、バスケットを置いて隣の地面を叩く。そこにルクセンブルクが腰を下ろし、バスケットの中身を見て「おいしそうですね」と顔をほころばせる。
一直線に並ぶのもおかしいため、アルレシアとオランダはベルギーとスペインの前、斜面の少し下の方に座った。体をひねって後ろを向いて、ベルギーからクロワッサンを渡される。
「ベルギーの家はなんでも美味いよなぁ」
「ふふ、ありがとぉアルレ兄ちゃん」
一口食べて、その食感と程よい甘み、豊かなバターの風味に思わずしみじみとこぼれた。ベルギーは言われ慣れているだろうに、嬉しそうにほほ笑む。
一方で、起き上がったポルトガルは「ワイン欲しいわぁ〜」と言いながら伸びをした。それにロマーノが「持ってきてやったぜこのやろー」と自身の家のワインボトルを取り出す。
「おっ、気ぃ効くやん」
「俺のカヴァもあるで!」
「それはええわ、気分やない」
「なんやねん!」
ポルトガルがロマーノのワインをポン、という小気味よい音で開けると、スペインがスパークリングワインのボトルをかざす。それには目もくれず、ポルトガルはプラスティックのグラス型のカップにワインを注いだ。
「スペイン、俺そっち」
「ホンマ?ええでええで〜」
「あ、じゃあウチはロマーノちゃんのワインもらえる?」
「僕もそれで」
「…俺はカヴァでええ」
スペインがアルレシアとオランダのカップに、ロマーノがベルギーとルクセンブルクのカップにワインをつぐ。
「てか、あるなら最初に開けろよ」
「ベルギーの飯早く食いたかったから忘れてただけだぞこんちくしょー」
「俺も腹減っとったさかい忘れとったわ〜、一緒やんな」
「うるせー真似すんな!」
二人そろって同じ理由で忘れていたらしい。「仲いいな」と言えば、ロマーノは「ちげーぞこのベッラ野郎!」と返してきた。矛盾していないか、とはさすがに言わずにとどめておく。
「よし、そなら乾杯するか」
スペインはカップを掲げて全員と目を合わせる。それに合わせて全員が軽くカップを持ち上げる。
「*Salud!」
「Salute」
「Saude〜」
「Prost!」
「Proost!」
見事に全員バラバラだ。オランダとアルレシア、そしてベルギーは同じProostが基本的な言葉だが、ベルギーは南部ではまた違った言葉になる。
ルクセンブルクは比較的似ているが、微妙に伸ばす音が異なる。
南欧組は似ているようで、やはり語尾の語形や発音が少し違う。
ちなみに、今はカップを互いにぶつけるが、正式な会食や本物のワイングラスを使っている場合、乾杯の際にグラスをぶつけることはせず、アイコンタクトとともに目線の高さに持ち上げる動作で済ませるのがマナーである。
「そういや、日本はいつも俺やヴェネチアーノが正式な方の乾杯でCin cinって言うと、変な顔すんだよな」
「へぇ、そうなん?」
スペインは興味深そうにするが、ロマーノもスペインもそこまで気になるわけでもないのだろう、すぐにその話題は終わった。
そうしてベルギーの食事やロマーノとスペインのワインに舌鼓を打つと、あっという間にバスケットは空になった。ボトルは両方とも空いたが、これくらいで酔うようなことはない。
しかし、食後と暖かな気候が相まって、絶妙に眠くなる。
「ふぁ〜、俺寝るわ〜」
「俺も寝るぞこのやろー…」
まずポルトガル、直後にロマーノはその欲求に忠実になり、眠り始めた。
スペインはベルギーの片づけを手伝ってから、「シエスタせんと」と言って同じく横になる。
「んん〜、ええなぁ、ウチも寝てええかなぁ」
「僕も寝てしまいそうです」
「寝てていいぞ、俺起きてるから」
つられたのか眠たげなベルギーとルクセンブルクに、アルレシアはそう言って促してやる。
「俺も起きとる。気にせんでええさけ寝ねま」
気を遣ってしまいがちな二人が寝られるよう、オランダも加わればもう安心したようだ。二人は礼もそこそこに眠りに落ちた。相当眠かったようだ。
暖かな日差し、優しい風、柔らかな草の匂い。
実は揃って暮らしたことがないポルトガルも一緒に、かつてのスペイン一家が集まっている。
「…なんか、いいな、こういうの」
「…ほやな」
一番幸せな時代を過ごしたのがこのメンバーだったからだろうか、あれから本当に、本当にたくさんの大変なことやつらいことがあったが、今こうして過ごせる平和がやってきたのだと改めて感じる。
ぽす、と隣のオランダの肩に頭を預けるようにして寄りかかると、オランダに肩を抱かれる。
こんな穏やかな時間が、これからの時代もずっと続いていけばいい。そう願って、目を閉じた。