第一話: 無骨なあかつき−1
及川との夜を過ごしてから一週間後、すでに春の陽気も深まって、季節をしっかりと感じる日々となった。漣は本業のディーラーをやりながら、及川とやり取りをして次のステップの算段をすでにつけている。
及川はあのあと、随分と漣との行為が良かったらしく、朝まで激しく求められた。互いに後悔しながら朝を迎えたわけだが、すっかり及川は「漣が今日も可愛い」とたわけたことを言うようになった。
その後、及川の部下たちとも会った。情報屋としての漣に対して、MSDが全面的に協力するということを宣言した上で、いろいろと支えるように及川は指示してくれたのだ。
MSDのいくつかある部署のうち、京谷がいる娯楽施設パトロール課(EPS)の課長である岩泉は、眠らせた漣を怒るでもなく、やっていることを理解して受け入れてくれた。いわく、「敵じゃねぇならいい」とのことだった。その度量の大きさはまさに兄貴肌らしい。
潮騒地区に四か所ある検問を管轄するゲート監視課(GCS: Gate Control Section)の課長・花巻は、直属の部下である国見とともに潮騒地区の入域と退域を誤魔化すための特殊なカードを渡してくれた。認証はされるが情報は登録されないというカードだ。礼を言うと花巻は「一発ヤらせて」とウィンクしながら頼んできた。つい先日相手をしたが、及川同様、どハマりしていたようだった。
武器貸与課(WES: Weapon Entrust Section)は課長に松川、部下に渡がおり、警視庁からの貸与を受けた武器の管理や報告書の提出を行っている。同時に、密輸した武器を日本全国に運ぶための操作もしていた。ちなみに松川の相手をした際には、手を手錠で拘束され目隠しもされて責め立てられた。「こんな趣味付き合ってくれる彼女いなくさァ」と語っていたのがひそかにトラウマとなった漣だが、案外ああいうのも悪くなかったと喉元過ぎれば思うようになっている。
及川が以前までいた違法行為調査課(RIS)の課長は現在矢巾で、部下には金田一という背の高い青年がいる。島内での違法行為を捜査する部署だが、むしろ島内の数々の違法行為を監督する立場であるため、密輸をはじめ様々な不正を世間から誤魔化す最前線でもあった。矢巾は「及川さんの後釜きつい」とぼやいていたので慰めるように相手をしてやったところ、なんだか懐かれた。
こうしてMSD全体を手籠めにした漣は、及川の指示と花巻、矢巾のバックアップで現在、夜の新東京港にいる。潮騒からは、風の道地区を挟んで反対側にある地区で、国際会議場や客船の停泊するドックがある。
その第二ターミナルにて、漣は上屋の貨物にこっそりと機械を取り付けていた。
こっそりと、とは言っても動きは大々的だ。ターミナルに隣接する倉庫の中に並ぶ貨物の群れの合間を縫って、今日密輸される貨物に発信機をつける。着ているのはSTCグループのフォワーダー会社である「白鳥物産エクスプレス」という会社の制服だ。
フォワーダーとは、貿易の過程において通関などを主に行う会社のことである。国際貿易は、メーカーがものをつくり、それを商社が販売するため買い付け、フォワーダーが商社の依頼を受けてその商品の通関を行い、キャリアが飛行機や船でその商品を運び、現地でまたフォワーダーが受け取って通関を行い、現地の小売などに運ばれるという仕組みだ。
STCグループでは、本体の商社である白鳥物産が買い付けなどを行っており、子会社である白鳥物産エクスプレスが通関を行っている。また、倉庫なども運営しており、その管理や貨物として1つに組み立てる作業も行う。
それを、同じグループの白鳥郵便汽船が客船に積載し各国へ運んでいく。
新東京港地区の上屋では、白鳥物産エクスプレスが通関した貨物の一部に密輸貨物を含ませている。現場作業員はそうとは知らずに積みつけているようだった。密輸貨物には白い鳥の絵が描かれたシールが貼られており、それで見分けているため、漣もそのシールがついた貨物に発信機を取り付けた。