第一話: 無骨なあかつき−2


その後、今度は客船が積み下ろされた輸入貨物の方へ向かう。こちらも輸入通関を切ってから国内に流れていくが、シールが貼られているものだけが別のコンテナに集められ、フォークリフトで運ばれる。メインとは別の小さな上屋に運ばれたその貨物は、その上屋に設置された検疫室に運ばれる。検疫室は、動物や植物の検疫を行って輸入可能かを判断する場所のことで、使用中は扉が閉じられる。もちろん検疫にも使われるが、特殊な操作をすると床がエレベーターとなって降下していき、あの地下道にたどり着くようになっているそうだ。
こうして、自社の社員をも欺いて一部の人間だけで密輸が行われている。

漣はそのコンテナに運ばれる密輸貨物の1つにはまた発信機を取り付ける。

ちなみにこの発信機はガムのような粘着性のものに包まれて取り付けられている。必要な情報が得られるだけの時間が経過すると自然に落下し、まるでガムを捨てただけのようになるわけだ。たとえ中身を調べられても、見た目にはただの鉄の破片にしか見えない。

仕事を終えた漣は、制服から着替えて私服になると、新東京港3丁目のサウスゲートから風の道地区に出て、オフィス街を横断して潮騒地区のサウスゲートから入域する。この時間の担当は国見で、もらったカードを通して当然のように中へと入った。国見は会釈を返してきたので軽く微笑んで返す。途端に顔を赤らめた様子が可愛いくて微笑ましい。

ゲートからは動く歩道で2丁目へ移動し、ホテルNesTの従業員区画の自室へ戻る。6台のPCが出迎えてくれたが、今日は寝るだけだ。あとは勝手にハッキングした衛星が発信機の情報をPCに転送し自動で記録する。この情報は、まさに貨物が地下道を通って、ウェストリバーHDか帝都電鉄によって運ばれることを証明し、STCグループの船がその貨物を運んでいることを示してくれる。
この情報ではまだ白鳥系列に喧嘩を売るには早いものの、次の相手には有効だった。


「待ってろよ伊達男」


***


春の夜。
及川に紹介された伊達総合建設の社員にしてTIREAのインフラ管理室(IMO: Infrastructure Management Office)の部署の1つ、施設維持部(MFD: Maintenance of Facilities Division)の部長をしている男を待ち伏せるべく、漣は一度ACTIRを出てモノレールに乗っていた。
臨海特区には帝都電鉄ベイラインの他に、モノレールも通っている。新橋からお台場へと至るそのモノレールの路線は、それまでお台場で折り返していたものが、臨海特区の北西にお台場から伸びる暁ふ頭へ延伸し、臨海特区の北側で半周してからまた本土側へ戻り元の路線に接続するようになっていた。従来の路線に加えてこの臨海特区へ至る新線に合わせて、暁ふ頭には3つの駅が新設された。
青海3丁目、東京テレポート南、暁ふ頭公園の3つで、いずれもかつては倉庫街だったものが住宅とオフィスの立ち並ぶ場所となっている。この青海地区は、今ではACTIRに出勤する人々が暮らす場所となっており、いくつものマンションが建っていた。従業員たちが暮らせるよう、部屋の価格を抑えるためにも新たに造られたこのマンション群は武骨で質素な作りをしている。
モノレールは、かつて船の科学館と呼ばれた駅から南へと延伸し、青海3丁目駅を経てから海上を進んで臨海特区に入り、海の森地区の西の端にある暁橋駅を経てから新東京港駅に至る。この駅は新東京港ノースゲートに面している。その次がACTIR中央駅で、ここから潮騒駅、有明橋駅と島を東へ進みながらベイラインと接続していく。有明橋駅でもう一度海の森地区に戻って来たモノレールは、西へと転回し、青海橋駅を通ってから海の森駅でもう一度ベイラインと接続。そしてまた海に出て暁ふ頭に戻ってくると、暁ふ頭公園駅と東京テレポート南駅を経てから従来の線路に繋がる。
臨海特区からは、青海3丁目駅方面と暁ふ頭公園駅方面の2通りにモノレールが都心方向に向かうことになるわけだが、東側の暁ふ頭公園駅ルートはお台場を通って豊洲へ続く。一方、青海3丁目駅方面へ行くとお台場を通ってからレインボーブリッジを渡り新橋へ至る。
今回漣は、青海3丁目駅に用があったため、潮騒駅から新橋行きのモノレールに乗って10分ほどウォーターフロントの街並みを眺めた。レインボーブリッジや東京タワーなど都心らしい光景が続く様子はとても近代的だった。

モノレールが青海3丁目に着くと、漣は人の流れに乗って駅を出て、殺風景な景色にため息とついた。ACTIRは緑が多く、すべてが人工といえど気分は悪くない。しかしこの暁ふ頭に建設されたマンション街は、マンションとコンビニ、コインランドリー、スーパーなど必要なものが必要な分だけ揃えられたあまりに人工的な街で、緑もなく、息苦しかった。1DKの部屋だけが詰め込まれた低層のマンションが並ぶ様子は圧巻で、どれも同じ形でつくられており、まるで大規模な分譲だ。部屋数が多いため人口も多く、新都心となったACTIRの昼間人口11万人、夜間人口3万人を支える。臨海特区に居住できないため、このような無理な街が作られたわけだ。



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