第四話: 娯楽都市の番犬−1
青城セキュアカンパニーは、有名な警備会社の1つでCMもやっている。主な仕事は警備員派遣やSP、武装エージェントなどだが、ACTIR建造にあたってTIREAのMSDにノウハウ研修などを行っていた。その後、集団転職した者たちが課長などを務めている。
MSDの部長は及川徹、この春までRIS、違法行為捜査課(Research of Illegality Section)の課長をしていたようだ。昇進したらしい及川は、この件のことを知らないわけがない。
漣は次の狙いを及川に定め、一気に詰め寄ることにした。京谷のデータ記録からMSDのサーバーの位置を特定し、そこから連絡先を入手した後、メールのやり取りを解析する。
そこまでやってしまえばあとは簡単だ。
呼び出して、真正面から勝負を賭ける。
***
1週間後、漣はホテルNesTに及川を呼び出した。だが、実際のメールの送り主は娯楽施設パトロール課の課長、岩泉だ。
夜の潮騒地区の眩すぎる光が眼下から差し込むホテルの一室。フロントには、及川が来たらこの部屋に通すよう伝えてある。このフロアの入り口には欧州の空港並みの金属探知ゲートがあるため、一切の武器は持ち込めない。
眠り心地最高のベッドに座り、普段のディーラー姿で待つ。時刻は23時、先ほどまでディーラーの仕事もしていた。早上がりしてここに来ているわけだ。
すると、チャイムが鳴って来客が告げられる。やっとお出ましである。呼び出し時刻ちょうどに来る辺り、きちんと礼は弁えている。
なぜなら、呼び出した内容というのも、パトロール中に岩泉が「クライアント」に話があると言われ、部長を呼ぶよう日時を指定されたという内容だったからだ。この部屋には、クライアント、つまりは密輸の商売相手がいると及川は思っている。
ちなみにメールを送ったのは今日だ。そして岩泉は、隣の部屋で眠っている。夕方このカジノにパトロールに来たところでホテルに呼び出し眠らせた。一緒に見回りをしていたのは京谷であったため、やつはカジノで遊ばせてから先に帰らせた。京谷は恐らく、漣が密輸にも関わっていると勘違いしているだろう。
「岩泉さんは『例の件』で話があるから借りてく」と言って帰らせたからだ。
この『例の件』や『クライアント』も、MSDで使っている隠語のようなものだ。メールの解析であきらかにした。これが分かっていないと自然に騙すことができない。
漣は扉で待っているだろう及川のために、廊下へと向かった。金の取っ手がついた豪華な扉を内側に開けば、スーツ姿の及川が現れた。
身長は183ほどだろうか、若く、やたら顔が良い。体格はしっかりとしているようだった。
「とりあえず中にどうぞ?」
「……あなたは、」
及川は困惑している。当然だ、漣はこの街で有名なディーラーをしている、クライアントには思えないだろう。
怪訝な顔をしながらも、外でできる話ではないため及川はまず室内に入る。そのまま漣とともにシッティングスペースのソファーに横並びに座った。
初対面の距離ではないため、及川はますます戸惑っていた。
「ご足労ありがとう、MSD部長の及川さん」
「……あなたは、このカジノの有名なディーラーですよね、確か、香坂さん」
「ため口でいいよ、年そんな変わんないし、何よりクライアントじゃないからね」
正直に言えば、及川は一気に警戒を滲ませた。罠の可能性が急に高まったからだろう。しかし丸腰で敵中にいることもあり、警戒しつつ迂闊なことはしてこない。むしろ、笑顔を浮かべて弛緩させようとしてきた。