第一話: 東のソドム−3
東京ウォーターゲート駅を出てから、帝都電鉄ベイラインは東海駅を通って東京湾の底を走り、ACTIRに入る。最初の駅は「海の森」、北側一帯の地区の中心的な駅だ。
ACTIRは北側に三分の一、南側に三分の二となるような形で、東西に運河が横たわる。これは昔から中央防波堤内側埋立地と外側埋立地を分けていたものだ。
かつて内側埋立地と呼ばれていた北側一帯を、「海の森地区」という。
そのほか、南側の西半を「新東京港地区」、東半を「潮騒地区」、新東京港と潮騒の間に縦長の「風の道地区」と言う風に区分されている。
運河を渡る橋は、海の森とそれぞれの地区に1つずつのペースで架けられており、新東京港地区と繋ぐものを暁橋、風の道地区と繋ぐものを青海橋、そして潮騒地区と繋ぐ橋を有明橋という。南側の島は運河に沿って大きな道路「東京港臨海道路」が走り、東では東京ゲートブリッジで江東区と、西では海底トンネルで大田区と繋がっている。
暁橋と有明橋は、それぞれ正面に新東京港地区と潮騒地区へのゲートが構えている。新東京港ノースゲート、潮騒ノースゲートという検問所で、立ち入り制限のある両地区への入り口の1つだった。
海の森地区は入域に制限がないため、ビジネスビルのほかにホテルやショッピングモール、映画館など繁華街となっている。運河を青海橋で挟んで対岸の風の道地区も同じく制限のないオフィスビル群となっており、青海橋近辺は高層ビルが立ち並ぶ。
『次は、ACTIR中央駅、ACTIR中央駅です。お出口は左側です。モノレールはお乗り換えです』
電車は海の森を出てから、ACTIRのダウンタウンへ至る。風の道地区の北端、青海橋で海の森地区と繋がる地区だ。
ここはACTIRすべての地区と繋がる場所であるため、立ち入り制限のある新東京港地区と潮騒地区それぞれへのメインエントランスである「セントラルゲート」がある。
人の集まる場所であり、TIREAの入るACTIRセンタービルという島で最も高いビルもある、まさにこの街の中心である。他にはACTIR中央病院や臨海特区警察署、臨海特区消防署など公共施設も集中していた。
たくさんの乗降客を入れ替えると、電車は暗闇を進み新東京港地区に入り、次の「国際会議場・マリンターミナル駅」に着いた。
新東京港地区は、その名の通りとして港湾施設もあるが、もう1つ、巨大な国際会議場と国際展示場も抱えている。国際会議が開催できる設備だけあって、警備を厳重にするべく、この地区への立ち入りには許可が必要となる。
まず駅の改札から新東京港地区に入る際に、国際会議場や展示場のパスか客船への入船チケットを通さなければならない。その後、国際会議場がある新東京港2丁目に向かうブリッジに入るために再びパスが求められる。
この地区のすべてのゲートが、このような二段階での認証を必須としていた。
マリンターミナルは小型・中型客船ドックのある第1ターミナルと大型客船ドックのある第2ターミナルに分かれており、これまで大井ふ頭にしか停泊できなかった大型客船や豪華客船も泊まれるようになっている。
さらに電車が快調に走ると、「風の道駅」に到着する。
南北に細長い風の道地区は、中央に運河から東京湾までの南北方向の大通りを擁する。この通りは緑に溢れ、中央部には最新の小型風力発電設備が並び、両側にオフィスビルが整然と立っていた。
東京湾からの風が街を貫く道となっているわけだ。
この風の道駅には、島の南側における新東京港地区と潮騒地区へのエントランスとしてそれぞれの「サウスゲート」が面している。
やがてこの駅を過ぎればいよいよ、電車はこの島のメインともいうべき潮騒地区に入る。
潮騒駅はこの地区の中央部に位置しており、駅から出るためにはTIREAの入場許可証が必要になる。この許可証は非常に厳しい審査があり、実質的にはパスポートのそれと同じだった。
駅を出ることができれば、そこは日本唯一のカジノ街。
華やかなカジノが、2丁目から6丁目までそれぞれ一カ所ずつ、計5つの会社に割り当てられ立ち並ぶ。カジノ施設そのものはこの地区に20カ所以上存在していた。1丁目はセントラルゲート周辺のオフィス街として設置され、潮騒地区で唯一制限のない区域である。
潮騒駅、ノースゲート、セントラルゲート、サウスゲート、そして数々のカジノや併設されたホテル、レストラン、カフェなどはすべて天井付きの歩道で繋がり、歩道はすべて動く歩道がついている。
潮騒地区だけで運行されるトラムは無料だ。まさに、娯楽を極めた街である。
潮騒駅を過ぎると、ベイラインは再び海の森地区に戻り有明橋駅を経てからACTIRを出て江東区に入り、若洲駅を経由して新木場駅に繋がる。
漣の職場はこの閉鎖された未来都市である潮騒地区の2丁目。そして、漣の住む場所となる。
戸籍のない漣は、居住できないという法など関係がないからだ。入場許可証だってモナコで偽装したものを受け取っている。
電車を出ると、ホームにはアナウンスが響く。浮かれた人々には聞こえていないだろう。
『潮騒、潮騒、日本最大の遊戯場へようこそ』