連載: rack up, good luck !−2
きっと、影山にとってその一球は、とても重要なものだったと思う。
ぎりぎりで手に当たってしかもアウトだったというお粗末な速攻ではあったが、初心者レベルの日向と根っからの天才である影山の組み合わせで行った初めての速攻としては悪くない。何より、トスの先にスパイカーがいる、その事実だけで十分だ。
「おいお前ら速攻(クイック)使えんのかよ!?」
「?全然」
おもむろにぶっぱなされた速攻に田中の驚愕の声が響く。しかし日向の方はそんな拍子抜けするような返答だ。
しかし日向は「どんなトスでも打ちますよ!」と強気を崩さない。
「合わせたこともないのに速攻なんてまだ無理だろ」
「なんだお前変!そんな弱気なのきもちわるい変!!」
「うっせーな!」
そして影山はといえば、覇気のない声でそんなことを言った。日向は「こいつ無理って単語知ってんのか」という顔をしていた。大変分かりやすい。
「王様らしくないんじゃな〜い?」
「今撃ちぬいてやるから待ってろ!」
「まーたそんなムキになっちゃってさぁ。なんでもがむしゃらにやればいいってもんじゃないでしょ。人には向き不向きがあるんだからさ」
そんな3人に向けられた月島の言葉は、序盤かた続く煽りの延長でもあるが、まったくの嘘でもない。バレーには細かく役割分担がある。どのスポーツもフィジカルが重要だが、バレーは高さに純然たる強さがあるのは確かだ。
しかし日向は、かつて烏野にいた「小さな巨人」に憧れているという。伊吹も、烏野が古豪だったから受けたわけだが、小さな巨人のことは知っているだけだった。日向には、そのフィジカル的側面からより実感として目指したい気持ちが強いようだ。
「不利とか不向きとか、関係ないんだ。この体で戦って、勝って勝って、もっといっぱいコートにいたい!」
「…だから、その方法がないんでしょ。精神論じゃないんだって。気持ちで身長差が埋まんの?リベロになるなら話は別だけど」
「……スパイカーの前の壁を切り開く…そのためのセッターだ」
月島が言う事は間違ってはいない。それでも、日向の隣には影山が立ちはだかった。あれほど反目し、今も仲が良いとは言えないが、今、2人は並んで立っていた。
とはいっても、そこから速攻をきちんとしたものにするなど簡単にできるわけもない。空振りしまくる日向に、思わず影山は怒鳴りそうになるが寸でで堪えた。しかし見かねた菅原は、転がって来たボールを片手で掴むと、コートに割り行った。今の烏野の正セッターは菅原だ。先輩として思うところがあるのだろう。
「お前の腕ならさ、もっとこう、日向の持ち味っていうか、その、そういうのもっとこおう、なんかうまいこと使ってやれんじゃないの!?」
拙い言葉ではあるが、菅原はセッターとして影山に懸命に伝えようとした。
この試合の機会自体、澤村が用意して整えたものだ。そして、菅原がこうしてフォローに入り、暴走しそうになる田中を逐一澤村が諫めて、部員たちが言葉を発する機会を確保する。
3年生がきちんと後輩たちを導こうと、監督もコーチもいないこの状況の部活で必死になっているのだ。
烏野でなら、影山はきっと良いものを得られる。その伊吹の確証は、ここにある。
日向の良いところを生かせるトスをしてやるべきだ、という菅原の助言は当たり前のことかもしれない。しかし、影山は勝つために個人技を今までしすぎていた。そんな簡単なことすら、大人は教えてやらなかったらしい。
「ボールは俺が持っていく。お前は、マックスの高さと速さで飛べ。ボールは見なくていい」
「はぁ!?それじゃあ空ぶるじゃん!!」
「かもな!!」
「はぁぁ!?!?」
「でも!!…やってみたい」
影山は、日向と何やら画策している。その指示は、ボールを見ずに飛べという無茶なもので、日向の反応も当然だ。だが、やってみたいという影山のまっすぐな目に、日向は頷いた。