連載: rack up, good luck !−ミニゲーム


やがて、あっという間に土曜日の試合がやって来た。1年の様子を見るために行う簡単なものながら、今回は影山たちにとって重要な意味を持つ。
マネージャーとしての仕事は清水で足りるため、今回の試合は伊吹は単純な観客でしかない。

審判は2年で坊主頭の成田、得点板は同じく2年の木下が行う。得点板の横で、伊吹は2年の縁下と菅原と並んで見守ることにした。
一方、1年たちはすでにアップをしてコートに立とうとしていた。

1年にして190近い身長の月島、180近い山口は能力も未知数だが、月島がさっそく日向たちを煽っているあたり癖は強そうだ。


「どっちが勝つと思う、縁下」

「1年の実力が分かんないから何とも言えないけど、田中と影山がいるから攻撃力は日向・影山チームのが上だよな」

「タッパある月島とレシーブ力ある澤村さんがいる月島・山口チームは守備力が高いってとこか」


同じ2年なので気兼ねなく話せるのが縁下だ。よく人を見ていて、その評価はいうも的確だと思う。二人で話す通り、今回のチーム編成は、攻撃力と守備力、どちらも偏っている。
少しして、成田のホイッスルで試合が始まった。

さっそく田中が決めると、田中は雄たけびを上げながら服を脱いで逞しい上体を晒した。菅原、縁下、木下からヤジが飛ぶ。まだ序盤なのにエンジン全開の田中は、レギュラーとして力強いスパイクが強みだ。

続くラリー、影山は反目していたはずの日向にトスを上げた。この1週間、きちんと影山は日向に向き合ったのだろうか。どうやら田中と菅原が練習に付き合っていた様子なのは察していたが、日向の実力はどんなものか。
そう思った瞬間、日向は、文字通り「飛んだ」。


「なっ…嘘だろ、」


その高さは、伊吹より身長が遥かに小さいにも関わらず、打点としては普通の選手に匹敵する。だが、その普通の高さは、月島の高い壁に阻まれた。ドシャットを食らい、ボールは日向の後ろに落ちる。


「…あの身長差で月島の手に当たるのがもうすげぇけど……」


しかし、その後も攻撃は月島に阻まれる。影山の中学以来となる化け物級のサーブも、澤村のレシーブで得点に繋がらなかった。攻撃は最大の防御ともいうが、バレーにおいて、守備の強さはそのまま得点となる。それがこの競技の特徴の一つでもある。


「やらないの?『王様のトス』」


フラストレーションが溜まっているだろう影山に、更に月島は追い打ちをかけるように言った。王様のトス、先ほどから何度か月島が口にしている言葉だ。言われるごとに乱れる影山に、ついに日向が月島に食って掛かるが、逆に月島は「知らないの?」と酷薄な笑みを浮かべた。


「影山の強さに、対戦相手がビビッてつけた名前じゃねーの」

「そう思ってるヤツも少なからずいると思うよ、でもね」


なぜ、影山が「コート上の王様」と呼ばれるのか。
日向の疑問は、事情を知らない部員たち全員の疑問でもあった。試合を止めて月島が語るのは、本人も「噂では」と前置きしていたが、内部事情に通じる伊吹からすれば事実であった。

勝ちに固執するあまり他を置き去りにしてしまった天才のトス。本来ならば、監督が導くべきところを、それを怠って影山はあの決勝を迎えた。
いたずらに傷つくような、そんな形で示す必要があったわけではないはずなのだ。あんなひどい形でなくても、影山に大事なことを教える方法なんていくらでもあったはず。


「…あぁ、心底こえーよ。トスを上げた先に誰もいねぇってのは」


月島の語る話に嘘も誇張もない。だから、淡々と影山は気持ちを抑え込むように言った。初めて聞く澤村たちは、驚いてかける言葉を見つけられないようだった。ある意味で、高校生の澤村たちは大人すぎたのかもしれない。影山を傷つけないように、どういう言い方をするべきか、どうしても考えてしまう。

しかしそんな空気を軽く破ったのは、意外にも日向だった。


「でもそれ、中学の話でしょ。俺にはちゃんとトスが上がるから、関係ない。それより、どうやってお前をぶち抜くか、それだけが問題だ!」


まっすぐな言葉は、一見アホのようにすら思えるかもしれないし、日向にそういうところがないとも言えない。しかし、純粋に世界を見ているヤツの言葉は、いつだってまっすぐだ。

弛緩した空気で再開される試合。影山に回って来たトス、田中と日向、どちらに回すか影山は一瞬の判断を迫られる。いや、迫られた、はずだった。


「―――いるぞ!!」


トスの先に誰もいない、それは中学までの話。
今、高く高く、日向が影山の目線の先に、翔んでいた。



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