年上彼氏−1
「デートしようぜ」なんて言って、1つ年上の恋人に誘われたのは1週間前のことだ。
都立音駒高校に通っている伊吹は、男子バレー部でマネージャーをしている。2年生になって、早くも2か月が過ぎた。部活に追われながらバイトや勉強にも勤しむ忙しい毎日ではあるが、伊吹も恋人とやらがいるので、リア充というやつだ。
とはいえその恋人は、3年生でバレー部部長の黒尾という男子、同性だ。抵抗感はゼロではなかったが、中学の終わりに仙台から東京に引っ越してきてから、高校に入って世話になる中で、徐々に惹かれていく自覚はあったため、仕方がなかったとも思っている。しかし明確にここが好き、というものはなく、黒尾に好きだと告白されたときに、自分の気持ちがそれにあたるものだと気付いたほど。今もどこが好きなのかと言われると答えに窮するのだが、それでも、一緒に過ごす時間が好きだった。
部活などの合間を縫って、オフの休日となった今日、黒尾に誘われて新宿に来ている。いつでも人で混み合う街ではあるが、黒尾は身長187センチと非常に長身であるため、すぐに見つけられるだろう。あの特徴的な髪形も然り。
待ち合わせに指定されたのは東口改札を出てすぐ、一番混んでいるところだ。いつも待ち合わせの人々がいる。スマホを改札に翳して通り抜けると、正面の柱あたりの人込みに頭1つ以上飛びぬけた長身を見つけた。先の宮城への遠征で、古い付き合いだという県立烏野高校の10番からはトサカヘッドと呼ばれていた。
チノパンにシューズ、ティーシャツとデニム生地のジャケットという普通の格好だが、黙っていれば顔はいいので、高身長なのもあって人目を引いた。
「黒尾さん、」
「おっ、来たね」
「すんません、遅くなりました?」
「いんや?時間通り。俺もさっき来たんだわ」
よく悪ノリする普通の男子高校生といった感じだが、輪をかけて黒尾は食えない笑みを浮かべることが多く、よく胡散臭いヤツだと認識されている。今も、いつもなら、もしくは普通の友人なら「めっちゃ待たされたんですけどォ〜」くらいのことは言う。
だが、2人でいるときは比較的普通というか、穏やかな毒気のない笑顔でいることが多かった。
「いやぁ、今日も人すげぇな」
「毎回ここっすよね。アルタ前とかでもなく」
「まぁ、改札出てすぐだしな」
そうは言っているが、黒尾は自宅から新宿に来る場合、離れた私鉄の駅に着く。中央線で来る伊吹とは、利用する改札が異なるのだ。それでも、東口改札を選ぶのは、伊吹への配慮なのだろう。
「別に、わざわざこっちの改札じゃなくてもいいっすよ」
「まぁ、分かりやすいし。それに、なんつさかさ、初めて2人で出掛けたときもここで待ち合わせだったじゃん?」
「あぁ…そっすね、そういや」
まだ付き合う前、伊吹が上京してすぐのことだった。服などを揃えるためにお薦めの場所を、同じ学年で黒尾の幼馴染みでもある研磨に聞いたのだが、「クロに聞いて」と言われてしまったのだ。仕方なく、先輩に声を掛けるのは気が引けたものの、黒尾に相談したところなぜか一緒に行くことになった。
そのときも新宿で、まだ東京の鉄道に慣れていない伊吹のために分かりやすく新宿駅東口改札を指定してくれた。
「あのときさぁ、伊吹めっちゃ怯えてて可愛かったなぁって思って。今はすっかり慣れてっけど、あのときのこと思い出したらここで待ち合わせたくなんだよな」
「なんすかそれ…」
人の多さと密度に萎縮していたのは確かだ。途切れずに人を吐き出し飲み込む巨大な改札、行き交う人々も仙台では見掛けないようなファッショナブルな感じだったが、どこか殺伐としていて、多種多様な人々でごった返すカオスな空間が不快だった。目眩がしそうだったのだ。
「俺が後から着いて、ほっとしてるの見たときに、こいつ可愛いなって思ったんだよな」
「…趣味悪くねっすか」
「そ?でも、あれ以来待たせるの可哀想だなって思ったわけだよ黒尾さんは」
どうやら黒尾が必ず先に待っているようになったのは、そういう配慮らしい。確かに考えてみれば、最初の1回以外は、いつも黒尾が先に柱のところで待っていた。