年上彼氏−2
「ま、でもデートは初だな?」
「……そーですね」
「照れてる?」
「うっせ、デリカシーなくないですかそれ」
「はいはい」
そう、恋人になってまともなデートとやらをするのは、実はこれが初めてだ。よく2人になることはあったが、買い出しや合宿の打ち合わせ程度で、恋人としての時間を過ごすのは初めてとなる。
そう言われると変に意識してしまうが、黒尾はそれに気付いてニヤニヤとする。背の高い黒尾が、こちらにぐっと顔を寄せて腰を折るのも腹が立った。
「…で、どこ行くんすか」
「とりあえず服でも見に行こーぜ、モルイのメンズ館」
「買わないのに……?」
「大学生になったらどういう系統着ようかなぁ、とか考えんの楽しいじゃん?」
「はぁ……」
メンズ服というのは、実はちゃんと買おうとすると都内でも選択肢が多くない。仙台にいた頃も、デパートやモールしかなかったが、東京でもメンズ服だけを扱う店というのは、レディースに比べて遥かに少ないのだ。
伊吹や黒尾が住む郊外エリアで言えば、高円寺、吉祥寺、立川、八王子などだが、高円寺は古着で立川と八王子は地方都市のそれといった感じ。吉祥寺はメンズ服のテナントがほとんどなくなってしまった。
そうなると、下北沢や池袋、有楽町、渋谷、表参道などになってきて、高級なブティックだと代官山や中目黒、広尾、銀座なども選択肢に入ってくる。しかしこれらの街も、一カ所のデパートに大きくメンズ服フロアがあるか、狭い地域にブティックが点在するかのどちらかで、一つの街で比べながらまとめて買う、ということができない。
有名デパートのメンズ服のみの建物がある新宿は、駅ビルや私鉄系百貨店などを含めて選択肢が豊富であるため、メンズ服といえば新宿なのだ。
2人はごった返す改札前から、地下道を歌舞伎町方面へ進む。
「渋谷とかでもいんじゃねっすか」
「渋谷行きてえの?」
「嫌です」
「ほらな、わりと都民はシブハラが好きってわけじゃねえんだよな、行くことはそれなりにあるけど」
「上京組の大学生や若者が行くから都民も友達付き合いで行く場所っすよね」
「俺みたいなね」
暗に上京組の伊吹に付き合う都民という立ち位置をちらつかせてきたので、じと目で見上げた。偉そうに言うわりに高校生だろ、と目で語れば黒尾は肩を竦めた。
「ま、意外と東京生まれ東京育ちって、自分が住んでるとこと、新宿あたりしか行かねえんだよなぁ。俺、地下鉄全然分かんねえし、メトロと都営の違い分かんねえもん」
「そういうモンなんすか」
「そりゃ仕事し始めりゃ、色んなとこ行くから別なんだろーけどよ。それでも、使わねえ地下鉄覚えてんのは、真面目な田舎者か鉄オタくらいなイメージあんな」
「なんか腹立つから殴っていいです?」
「すーぐ手が出る!てかおい、ちゃんと前見ろよ」
一度殴った方がいいかと拳を握ると、黒尾は慌てて避ける。しかし直後に、人とぶつかりそうになった伊吹の肩を引き寄せた。とん、と肩が黒尾の脇腹に当たり、太い腕が肩に回る。
こういうふとしたときに、年上の恋人の上手な感じがして、少し嫌だった。埋めることのできない差を感じてしまうからだ。
大学生になったら、という黒尾の言葉もそうだが、今年度で黒尾は卒業してしまう。明らかな離別まで、無意識に時を刻んでしまうのだ。