こうはいこわい−1


3年が引退し、唯一、伊吹だけがマネージャーとして部活に残った。インハイを終えて夏になり、同期の3年が就活や受験に勤しむ中で、伊吹はインターンから内定をもらって就職先が決まっている。
それもあって、元部長の茂庭からは、2年のサポートを頼まれていた。それが主に新主将の二口を支えることを意味しているのは理解している。

新たなスタメンとレギュラーも決まって、本格的に部活が始動したこのタイミングにあって、伊吹は人知れず悩みを抱えていた。

気だるく暑い夕暮れ、太白区のアパートに帰宅すると、ここのところいつも続いている″それ″を確認してげんなりとする。
それは、玄関扉のポストに入れられた封筒だった。

早い話、伊吹はストーカーされているのである。

ここ2週間ほど、扉の下部にある郵便受けに差出人のない封筒が突っ込まれるようになり、中には盗撮と思われる伊吹の写真が大量に入っていた。
ここ数日は、愛情をひたすら書き連ねた便箋まで同封されており、正直気持ち悪すぎて吐き気がする。

ともに暮らす母のこともあり、伊吹は先週のうちに警察に相談したが、まともに取り合ってはもらえなかった。女性ですら警察は動かないのだ、男で被害者ともなれば警察など動かない。その程度なのだ。
依然としてこの国は、男性が受ける性犯罪に冷酷なのである。

一応警察には過去の封筒と写真を提出して被害届も出してはいるが、まず当てにならないだろう。
こうなれば自力でどうにかするしかない。

そういうことを考えていたからか、後輩だけとなった部活で、周りから心配の声をかけられることも出て来た。特に伊吹の機敏に敏い二口、青根、作並などだ。
それをやんわり否定してはいるが、手詰まりの状況に、じわじわと焦りと恐怖が募っていた。

もし、母や部員に何かあったらどうしよう。
伊吹は空手黒帯だ、直接来てもらえればやり返せる。しかし家族や、この部活のメンバーに手を出されてしまったら。
ストーカーの手紙には、いつも一緒にいる二口や青根への呪詛、貧しい暮らしを強いる母への批判が書かれていて、敵意は明確だ。そろそろ手紙の返信でも書いて誘い出し、殴る蹴るの暴行を加えるなどした方がいいだろうかとすら思っていた。

そんなある日、部活と自主練が終わり、部員たちに混じって更衣室で着替えているときだった。
ロッカーの上の段を使用していた伊吹だったが、そこから鞄を落としてしまったのだ。開けたままにしていたため、中身が床に散らばる。
どうにもマネージャーである伊吹に隙あらば構いたがる部員たちは、即座に、まるでレシーブでもするかのように駆け寄って拾おうとした。


「えっ…これ、なんスか」

「っ、最悪、」


そのとき、二口が、封筒から散らばった写真と便箋に気付いてしまったのだ。
ちょうど帰りがけにまた警察に寄るつもりだったため、先日の分を鞄に入れていたのである。それが、よりにもよって二口にバレてしまった。


「これ、なんですか伊吹さん。どう見ても異常でしょ」

「……それは、」

「自撮りとか言ったら怒りますよ」


察しがついているのか、立ち上がった二口は正面に立って、高いところから圧をかけてくる。いつの間にか静まった室内。他の部員も、散らばった写真を見て驚いていた。


「伊吹さん。ひょっとして、ストーカーされてんじゃないスか」

「……なわけ」

「でもこれ、すげー色々書いてありますよ?」


手紙を拾った女川が、引いたようにそれを読んで指摘する。手紙と大量の写真、それもすべてカメラ目線ではないものとなれば、ストーカーと行き着くのは容易だ。



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