こうはいこわい−2
見下ろしてくる二口の視線に負けて、伊吹はため息をついた。言い逃れはできないだろう。
「……2週間くれえ前から、その封筒が家の郵便受けに入れられるようになった。毎日律儀にな」
「っ、なんでもっと早く言わないんですか!?」
「もともと言うつもりなんてなかった。警察には言ってある、それも届け出るつもりだった」
「心配かけないようにってことですか」
努めて冷静になろうとする二口は、それでも呼吸に怒りが滲んでいた。青根も二口の後ろに来ていて、こちらをじっと見詰めている。責めるような目線から、そっと目を逸らした。
「で、でも、こういうの、警察って当てにならない気がするんですけど…」
「お、俺も作並君の言うとおりだと思います!よく事件になってるっスよね!?」
作並と黄金川は、批判でこそないが心配してくれていた。2人だけではない、全員、心配してくれている。
「……体制整えて春高目指す大事な夏だ。集中してもらいてぇんだよ」
「…ま、伊吹さんのそういう思考回路、ぶっちゃけ想像の範疇なんで、もういいっス」
伊吹の言葉は、二口にばっさりと斬られた。よく歯に物着せぬ言い方をするヤツではあるが、ここまで刺々しく言うこともない。怪訝に思って見上げると、二口と目が合った。怒っているのはもう引っ込めたようで、二口は「仕方ないな」という、呆れたような、それでいて愛しさを前面に出したような目をしていた。
「でも、もう知っちまった以上はしょーがないですよねぇ?もうこのまま部活に集中なんてできねぇよなお前ら!」
二口はそう言って部員たちに同意を求めた。青根や女川、吹上が頷き、黄金川や作並が「はい!」と元気よく返事をして、小原は「そうだそうだ!」と何かのデモのように声を上げた。
まさか、と思っていると、二口はにっこりと笑った。
「はい、決定!これから伊達工バレー部は全力で伊吹さんをクソストーカーからお守りします!」
「ちょ、何言って、」
「さっそく作戦会議するぞ!公園集合!」
あス!!!という威勢のいい返事とともに全員テキパキと着替えていく。呆気に取られていると、隣のロッカーの吹上が肩を叩いた。20センチ上の顔を見上げれば、「諦めてください」と真顔で言われてしまった。大人しく常識人の吹上に言われてしまえば、もう止められないのだと、伊吹も受け入れるしかなかった。
***
近所の公園に集まるむさ苦しい工業高校の運動部員たち。たった1本の街灯の下、近所迷惑にならないよう集まっていた。自主練に参加していたレギュラーがほとんどで、部員の半分はすでに帰っている。
「と、いうわけで、これより大まかな作戦を説明する」
二口が切り出すと、小原が首を傾げた。
「なんだ、もう何か決めてんの?」
「まぁな。決行は明後日、現行犯で取り押さえる」
「は?急すぎだろ」
伊吹は驚いて声を出すが二口に「まぁまぁ」と宥められる。自信のある表情は、すっかり主将のそれだった。
「部活に迷惑かけたくないっていう伊吹さんの気持ちも尊重したいし、こんなことさっさと解決したいじゃないですか」
「まぁ…そうだけど……」
「じゃあ決まりですね。うし、まずは状況の確認から」
二口は封筒と写真、手紙を取りだし部員たちに見せた。隣で見ていた作並は、さっそく何かに気付く。
「登下校のときだけ……?」
「そうだ作並。まずこの写真はすべて登下校のときのもの。手紙もざっと見た限り、伊吹さんの登下校中の様子を書いてる。ご丁寧に、玄関から校門まで」
「こいつ仕事は行ってるみたいだもんな」
同じく手紙を見ていた女川は、ストーカーが仕事でずっと見守れなくてごめんと述べているのを見ていたようだ。
「そっ。そんで、主語からして男。それから伊吹さんのアパートだけど、マンションじゃねえからセキュリティは特になくて、誰でも玄関まで行ける仕様な」
「なんで知ってるんスか?」
「お泊まりしたからな」
黄金川はそれを聞いて露骨に羨ましそうにした。作並がそれを窘めてから、二口は続きを話す。
「そこで、明日と明後日のオフを利用して、モニタリングをしつつ証拠を揃え直接捕まえる。ストーカーにとって誤算だったのは、伊吹さんがクソつえーこと、そして、俺たちが工業高校だってことだ」