朝チュン猛禽類−1


事後表現につき全体的に注意



目覚めだけなら、その日はかなり良い方だったと思う。

ふと目が覚めた感覚だけであれば、浅い眠りのときにふっと意識が浮上したような心地よさだった。しかし、天井の違和感に気付くよりも先に全身を様々な感覚が襲った。

まずは息を吸ったときの喉のイガイガ感。声を出しすぎて枯れたようなものだ。
続いて、腰を包む鈍い痛みと、尻のあらぬところのじくりとするような痛みが同時にやってきた。呻こうとしたが声が出ず、背中もバキバキと音がする。

いったい何事かと意識が急覚醒すると、ようやく天井が見知らぬものであることに気付いた。

大学生になって2年、一人暮らしをしていた東京郊外のアパートの白い天井ではない。天井と壁との間に茶色い柱の模様が入った、少しお洒落なものだ。

どこだここは、と隣を見たときだった。


「瀬見、さん……」


左隣に寝ていた精悍な男前は、高校時代のバレー部の先輩、瀬見だった。
毛先を黒く染めた小豆色のような明るい髪は健在で、大学でもバレーをやっているだけあって体格はさらにがっしりとしていた。シーツになげだされた腕は太く筋肉質で、掛け布団から見える腹筋も胸筋も逞しい。

まさに男、といった感じの先輩が隣に寝ているこの状況。あらぬところの痛み。
おまけにキリキリとした腹痛まで襲ってきて、同時に昨晩は飲み会だったことを思い出す。


「マジか……」


呆然と呟いた声に反応して目が覚めた瀬見の叫び声が響いたのは、それから2分後のことだった。


***



「……あー、その、覚えてる、か?」

「…夜のこと、すか」

「……そう」


落ち着いた瀬見が上体を起こし、伊吹も倣って起き上がるが、より腰が痛んだ。顔をしかめてしまったからか、瀬見はオロオロとする。


「これ、ひょっとして、」

「覚えてねっす。なんも」


伊吹は一言そう言った。
そう、何も記憶になかったのだ。


「瀬見さんと飲み会で偶然出会して、一緒に飲んでってとこまでっすね。あとは、なんも覚えてねえっすわ」

「マジか……俺も、久々に会えてテンション上がってくっそ飲んだことしか…」


一度だけ、上京したての頃に上京組のバレー部で飲んだことがあった。それ以来、伊吹は瀬見とは疎遠だったのだ。
それが、まさかバイト先でばったり会うとは思わず、シフトが終わると同時に知らない飲み会に参加させられ、そして記憶がない。
夏の眩しい朝日が目に痛いのは、あまりに不健全な夜を明かしたからか。


「…なぁ、でもこれ、」


瀬見は恐る恐るといった感じで、昨晩の2人に起きたであろう出来事を匂わせる。まだそうと決まったわけじゃない、と言おうとしたときだった。


「まだ、…っ、?」


ふと、下半身に違和感があった。いや、もともと違和感しかないが、たらりと何かが下から漏れる感じだ。普段経験することのない感覚に気持ち悪さを感じてそこに手を当てると、少しだけぬるりとした液体がついた。
布団から出して日に翳せば、その白い液体は男なら皆見覚えのあるものだった。


「「………」」


そこから、それが出た、という事実。

完全にアウトだ、と2人は揃ってため息をついた。

すると、途端に伊吹はきりきりとした腹部の痛みを思い出した。なんなら少し酷くなっている。


「いって……」

「だ、大丈夫か?どこ痛いんだ?」


腹を押さえてシーツに蹲ると、瀬見が慌てて背中を摩る。ようやく、酔った勢いでことに及んでしまうことによる怪我や体調不良の可能性に思い至ったのか、動揺していた。


「腹……あ、待ってマジでいてぇ……!」

「マジか、トイレ行くか?」

「……っす」





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