ルームシェア・デュース−1
大学生で付き合ってる設定
梅雨というものが農業にとっても市街地の汚れにとっても重要なことだというのは、頭の中では分かっている。
しかし、こうも雨が続くと辟易とするもので、毎日こうして低気圧だと何もする気が起きない。
気圧が低いと副交感神経の活動が鈍り自律神経が乱れ、頭痛や吐き気、倦怠感などに見舞われる。五月病や冬鬱などの症状はこうした背景があり、油断してはならない。こういうときにはとにかく副交感神経を落ち着かせる必要があり、コーヒーを淹れるというのは最も手軽な手段の1つだった。
授業のない平日の休みは大学生の特権で、3年になって授業数も落ち着いた今、6月のこういうどんよりとした日に外出しなくていいのはありがたい。
朝、といっても10時を回ったが、起きてから伊吹は湯を沸かし、ハンドドリップ式のコーヒーを淹れることにした。
ペーパーをセットして、コーヒー粉を入れてお湯を注ぐ。蒸らしている間に立ち上る香りが、知らず顰めていた表情を緩めるようだった。
「うおー…すげーいい匂いする……」
「はよ、今日は一段とダメそうだな」
寝室から出て来たのは、身長190センチに達する長身の男子。同性だが、恋人の川西太一だ。
「きっつ……」
「顔洗ってこい」
「んー……」
太一は高校時代に同じバレー部でスタメンだった。伊吹はマネージャーとして部活を共にし、そして在学中に交際するに至った。
当然誰かに言うものではなく、互いに同性を好きになってしまったことへの動揺も後ろめたさもあったため、今もルームシェアという名目で事実上の同棲をしている。
太一は大学でも体育会バレー部に所属してはいるものの、プロになる気はないらしく、体育会枠で鉄鋼商社にでも就職する、なんて言っている。そのため授業も元から少ない。
「あー…だめだ、全然だめ」
洗面所から戻ってきた太一は、キッチンスペースに来ると伊吹を後ろから抱き締めた。身長差20センチ、高校生のときから188あった太一だがその後も伸びて、今や190の大台にある。一方の伊吹は171センチと僅かに伸びただけだった。
体の前に太い腕が回され、頭に顎が乗せられる。
太一はちょくちょく女子のような可愛らしい一面があるが、低気圧に弱いというのもそんな特徴の1つだ。
「コーヒーいい匂いすんね」
「まぁな。俺もだりぃし。昨日は激しかったし?」
「うっ……」
互いに休みと分かっていた昨晩は、太一が激しく求めてきて、かなり大変な思いをした。普段は温厚で表情の変化に乏しいヤツだが、行為となると途端に雄っぽさを前面に押し出して責め立ててくる。
「すんませんでしたー」
そう言って太一は離れようとしたが、それを伊吹は腕を掴むことで引き留めた。
「…?どうかした?」
「んー、寒ぃからこのまま」
「動きにくくね」
「大したことねぇ。無精して薄着で起きるんじゃなかった」
「じゃあ暖めてあげんね」
太一は引き続き後ろから伊吹を抱き締めてくれる。梅雨の寒い朝だ、太一の低い体温が程良く温かかった。
「昼飯どーする?」
「もう昼飯のことかよ……材料買ってあっから牛丼にする。朝飯はソーセージ茹でてあるからそれと、スクランブルエッグ作る」
「おお……さすがの手際……」
「大したモンじゃねぇだろ。それよりお前、東アジア自由貿易論の課題は?」
「アッ、やべえ忘れてた!」