ルームシェア・デュース−2
コーヒーを淹れ終わりくるくると攪拌してから、用意していた2人のマグカップにコーヒーを注ぐ。再び強い香りが立ち上って気分が良くなるが、太一は重めの課題を思い出して焦っていた。
「本借りてねえ!」
「FTAの本何冊か借りてあるから使えば」
「はぁ〜好き」
「知ってる」
なおさらぎゅっと強く抱き締める太一をいなし、僅かに移動してフライパンを温めつつ、常温に近付けていた卵を割る。
太一が教授への悪口をつらつらと述べているのを聞き流しながらスクランブルエッグをとっとと作り終えると、茹でていたソーセージがいい感じになっているのを確認した。
トロトロとした半熟に近いようなスクランブルエッグを見て、太一は「ほぁ〜」と変な感嘆符を漏らした。
「いつも思うけど、よくこんなホテルみてえなの作れるよな」
「慣れ」
「かっけえ」
太一も料理は簡単なものならできる。オムチャーが好きで、たまに伊吹が太一に作って欲しくてお願いすることもあった。
スクランブルエッグとソーセージをすべての1つの皿に乗せてテーブルに移すと、ようやく太一と離れた。太一は長躯をのそのそと動かして椅子に座り、グラノーラに牛乳をぶっかける。
「あー…QOLバカ高くね…?」
「なんだそれ」
おもむろに太一はテーブルを見渡してそんなことを言ってきた。生活の質なんて、学生2人なのだからたかが知れている。
伊吹は冷蔵庫からマーガリンを出しながら呆れた。
「ちょっと飯とコーヒーあるだけじゃん」
「うまい飯とコーヒーな。そんで何より、くっそ可愛い恋人がいるし?」
ニッと珍しい笑みを浮かべた太一の言葉もまた珍しい類のもので、思わず伊吹はドキリとする。付き合い始めて長く、恋人らしさより友人らしさの方が強いときも往々にしてある2人だが、たまに不意打ちがあるのだ。負けたような気がして悔しい。
そこで、伊吹はマーガリンをテーブルに置いてから、太一の元へ近付いた。
「ほんと、伊吹は何でもできるよな」
太一は気付かずに言葉を続けたので、「それ高校んときも言ってたな」と伊吹は相槌を打つ。その声の近さに太一が視線を上げた。
怪訝にするその顔に自身の顔を寄せる。
「ま、白鳥沢のスタメン落としたぐれえだしなぁ?」
「…っ、」
耳元で囁くように言えば、太一はびくりとした。耳が弱いのだ。そのリアクションにニヤリとすると、太一は悔しげに笑う。
「っのやろ……」
「で?QOLブチ上がってる太一くんは、このあとどういうご予定?」
「……、ブチ犯す」
「上等」
その額に軽くキスしてやってから、伊吹も朝食を食べるべく席に着いた。いそいそと食べ始める太一はすっかり朝の気怠さを払拭させている。
「でも先に昼飯だからな」
「はっ!?」
「お前が朝飯の前から昼飯のこと聞いてきたんだろ」
「弄びやがって」と拗ねる太一に小さく笑う。仕返し成功だ。
と言いつつ、きっと午後は昨晩よりさらに激しくされるのだと思うと、2人はずっと引き分けのデュースが続く生活を送るようなものなのだろう。それが堪らなく、幸せなことのように思えた。