お分かりいただけましたかコラ−1
夏休み、合宿でのことだった。
夜、何やらわちゃわちゃと3年が騒ぎ、レギュラーの1年と2年が巻き添えを食らっているという話は他の1年から聞いていたが、2年でマネージャーの伊吹は放って置いていた。関係がないし、そもそも例年、合宿となると及川がホラーを見ようと言い出すため、今夜もそれだろうと踏んでいる。
伊吹はホラーが得意ではない。びっくりするのは疲れるだけなのでいいのだが、その前の「驚かすぞ」という雰囲気が嫌いだった。
北一時代に無理矢理見せてきた及川を、わりと本気で殴ったのはいい思い出だ。
そのときに伊吹がホラー苦手なタイプだということはバレてしまっているため、あまり隠してもいない。
巻き込まれないようにしよう、とそっと廊下を歩いていると、3年の寝室が並ぶところから一際背の高いやつが出て来た。伊吹を見付け、駆けてくる。
「伊吹さん、」
「金田一、どした?」
風呂上りだからか心なしか髪の毛がへたれている金田一は、伊吹の前に立つと、言いづらそうに「あー、えと、」ともにょもにょしている。伊吹が言葉を待っていると、やがて金田一は決心したようにバッと顔を上げた。
「やっぱ、だめだ。伊吹さん、また及川さんたちがホラー映画見せようとしてます、松川さんたちもノってるし…早く部屋に、」
「おや〜?何してんのかな金田一ィ」
そこへ後ろから声を掛けてきたのは及川だ。ニヤニヤとして、伊吹を見付けて楽しそうにする。金田一は及川の声にびくりと驚いていた。
「俺は伊吹を呼んできてって言ったんだけど?」
「……でも、」
「それにさ、いい歳こいてホラー無理ってのもあれじゃん?克服するチャンスだと思わない?気心知れた相手の前ならマシでしょ?」
どうやら金田一は巻き込まれたあと、伊吹を呼んでくるように指示されたらしい。恐らく、怖がる伊吹を見てみたい花巻や松川が乗っかって悪ノリしているに違いない。
金田一は呼びに来たものの、良心の呵責が起きたのか伊吹に戻るよう告げてくれた。
「そうやって煽っても無駄っすけど」
「ふーん?じゃあホラー苦手で逃げ出したってストーリー乗せよっかな」
「……チッ」
及川のSNS拡散力はえげつない。たとえ時限式の投稿であっても、画面キャプチャでいくらでも拡散できる媒体に行くだろう。
大したことではないが、面倒だ。伊吹は盛大に舌打ちをついてから、及川に続いて3年の部屋に向かうことにした。
「伊吹さん、」
「ありがとな、金田一」
軽く肩を叩いて気にするなと告げる。いいやつだな、としみじみとしていると、すぐに襖を開けて3年の部屋に入った。
中をざっと見渡すと、及川の他に松川、花巻、矢巾、渡、国見がいた。思いのほか少ない。
「温田さんたちは?」
「もう寝てます」
他の3年はどうやらすでに別の部屋で寝ているらしい。マイペースさが彼ららしかった。
京谷がいないのは当然として、岩泉の姿もなかった。
「岩泉さんもいねぇんすね」
「岩ちゃんは走り足りないって言って走り込み行った〜。シャワーできるうちに戻ってくるだろうからそのうち来るよ」
すでに大型テレビには静かなリビングが映し出され、女優の後ろに鏡が映っている。もう無理だ。実はあの鏡には何も映らず、油断したときに暗くなったテレビに映っていたりするのだろう。
そういう恐怖を煽る演出が嫌だった。
せめて岩泉か京谷がいればまだ安心できるのだが、うまくいかないものだ。
金田一は国見の隣にあぐらをかき、国見にどつかれていた。「隠れさせろっつったろ」「及川さんが察してついてきてたんだよ」と小声で会話していることからして、2人は何とか伊吹を逃がそうとしてくれていたのだと分かる。
「さっ、伊吹、俺の膝においで!」
「俺のここ空いてるぞ〜!」
「俺が守ってあげるよ?」
及川、花巻、松川は早速そう言って自分のところを示す。矢巾は加わろうとして、隣の渡に止められていた。賢明だ。
「からかう気まんまんじゃねっすか」
「いや、からかうっていうか……ま、気付かねえか」
松川は何やら意味深なことを言っている。からかいでないなら何なのか、という話だ。
伊吹は3年のところではなく、無理矢理国見と金田一の間に座った。2人は少し驚いてから、ずれて伊吹を招き入れる。