お分かりいただけましたかコラ−2
「あー!なんで1年のとこ!?」
「あんたらより安心できるんで」
ぎゅ、と両隣に座る1年の腕を掴む。金田一はともかく、国見も見た目からはわかりにくいが腕が太く筋肉質だ。強豪校のレギュラーだから当然ではある。
2人は嫌がる素振りなど見せずに伊吹を挟むように座り、金田一は3年から見えにくいように隠してくれた。
「あの2人、普段は言うこと聞くけど伊吹のことになると途端に生意気〜」
「及川ってたまに女子みてぇだよな」
「うるさいよマッキー!」
そうやっていつものように騒いでいると、矢巾が「見ないんですか…?」と真っ当なことを言い、ようやく見る姿勢になった。及川はノリノリで明かりを消すと、目に悪い暗闇でテレビだけという空間になった。
途端に映画の恐怖を煽る表現が目立つようになってしまい、見ているこちらも神妙な空気感となった。
嫌だな、と思っていれば、映画は素人の撮影したビデオのような映像になり、臨場感が増す。廃墟を散策する若者たち。
そっとうち捨てられた棚を開けると、そこにはびっしりと御札が貼られている。
思わず掴んでいた腕をさらにぎゅ、と握ると、こっそりスマホを弄っていた国見がそっと立ち上がった。
金田一もスマホを確認すると、おもむろに国見が去ったあとに伊吹を抱き込むような姿勢に変わった。
これで後ろも横も温もりに包まれて、逞しい腕が前に回されることで全方位を守られているような感覚になる。
さらに、金田一の大きな手の平が目元を覆ってくれた。
「…金田一……?」
「寝ててもいいっスよ」
小声で意図を尋ねると、曖昧にそれだけ返された。普段は大人しいワンコ気質の後輩なのに、たまにこうしてびっくりするほど大人びたことをしてくる。天然の面倒見の良さによるものだろう。
おかげで音声だけとなり、悲鳴に軽く驚くことはあっても、恐怖は感じなくなった。何が起きているか悲鳴だけでは分からないからだ。
何かを見たらしいが、まったくそれだけでは恐ろしくはない。
国見がいなくなって少し。
いきなり、襖がスパンと開いた。その大きな音と差し込む明かりに全員がビクリとする。明かりを遮る影は3人分あった。
「何してんだお前ら」
低い威圧感のある声は岩泉だ。その怒気に、及川は幼馴染だけあってすぐに事態を察する。さっとこちらを見て、金田一一人に抱き締められる伊吹を確認すると、犯人を確信した。
「国見ちゃん!」
「すいません。でも伊吹さん優先なんで」
「国見が伊吹の様子と、この映画がホラーファンの間でも相当恐いってレビュー見て、俺と京谷に知らせて呼びに来た。金田一もしっかり伊吹のことフォローしてくれたな。偉いぞ、国見、金田一」
「「あざっす」!」
国見は映画の質や伊吹の様子を見て、看過できない状況だと判断。岩泉と京谷を呼びに行き、伊吹のことを金田一に任せた。金田一はそれで、スマホを確認してから伊吹を抱き締めるようにしてくれたのだ。
岩泉は2人を褒めてから、こちらに来て、伊吹の頭を撫でる。
「もう大丈夫だからな」
「岩泉さん……」
「京谷、連れてってやれ」
岩泉の後ろから出て来たのは京谷だ。伊吹を金田一から預かると、腰に手を回して立ち上がらせる。
別に立てないわけでもないが、いつの間にか恐怖で体温が冷えていたのか、京谷が熱いほどだ。それに、酷く安心した。
「冷てぇな…お前、マジで苦手なのかよ」
「……わりぃか」
「別に。次は早く俺を呼べ」
京谷はそう言うと、わしゃわしゃと乱暴に伊吹の髪を混ぜた。特に冷えた手先を温めるように握り締められる。京谷なりに心配してくれたらしい。
ここに来て、伊吹はようやく心臓が張り裂けそうなほどバクバクしていたことを実感した。思っていたよりも、恐かったようだ。
「ちょ、ちょっと待って岩ちゃん!岩ちゃんだって好きな子に『恐い助けて!』って言われて抱き着かれたりとかしたくない!?」
「俺は好きなやつには笑ってて欲しいタイプなんでな」
「うっはかっけ〜」
すげなく返した岩泉に花巻の楽しげな声が返される。3年はさすがに肝が据わっている。
「このアホどもは俺が制裁しとく。京谷、任せたぞ」
「……っス」
京谷は頷いて、伊吹を連れて歩き出す。以前から京谷が部活に来ないでやっていた練習に付き合っていたこともあり、京谷は伊吹に対して意外にも過保護だ。不器用ながら大切にしようとしてくれるのだろう。その下手くそな真っ直ぐさが好きだった。
「国見、金田一、ありがとな」
「いえ。次は俺が止めます」
「俺も!」
国見と金田一はそう言ってくれたが、来年は及川たちがいない以上、こんなこともないだろう。それでも伊吹はそう言ってくれた彼らの優しさが嬉しかった。
「岩泉さんも、ありがとうございます。京谷も」
「いいって」
「……行くぞ」
京谷と廊下へ出ると、室内から及川の叫び声と花巻たちの笑い声が響いてきた。
「ほんとに3年かよあいつら」
「…否めねえ」
呆れたような京谷の言葉には、苦笑しか返せなかった。そんな3年のことを、きっと誰も憎めず思っている。京谷だってバレーこそ自分本位だが、戻ってきたこと自体、今の3年を認めている証拠だ。
ただそれとこれとは別なので、明日のサーブ練はいたずらに狙ってやるつもりである。