連載: the other rather together−2


「こっち来ぃや。ちょっとバレーがうまいだけいうて調子乗っとるアホに分からせたるわ」

「はぁ?それでついてくバカがどこにおんねん、アホか」

「ここで喧嘩しても俺らは困らへんけど、お前らはちゃうやろ」


にやりとした少年の言う通りで、ここで問題を起こせば双子が一方的に学校で問題になってしまう。侑はへらへらと嘲笑しながらも、表情には焦りも見えた。治も一言も話さず冷静だが、あたりをバレないように見渡している。まともに喧嘩するつもりは、さすがにないらしい。

確かに軽薄なことをした2人に問題があったが、それはいかなる暴力の理由にはならないし、あの女子たちが勝手に浮気しただけだ。
それならば、伊吹の取るべき行動は一つだった。

少年たちに連れられて更に細く暗い路地裏に入ると、そこには人の気配はなく、なんのテナントも入居していない廃墟のような雑居ビルに挟まれて建物内部にも助けは期待できない。しかし、それくらいはさしたる問題ではなかった。


「…侑、治、下がってろ」

「えっ、でも伊吹、」


伊吹がそう言って少年たちに立ちはだかると、双子は目に見えて狼狽えた。焦りと伊吹への心配だ。


「いいから。お前らがバレーできなくなるようなことには、ぜってぇしねぇ」

「ハッ、なんや中坊風情が」


馬鹿にしたようにこちらを見下ろす不良たちは、5人揃って素人であることは明らかだった。構えも何もない。それに隙だらけだ。
伊吹は薄く笑うと、おもむろに殴りかかってきた正面の少年の、がら空きとなった腹に中拳突きを沈めた。騎馬立ちという足を大きく開いた姿勢で腰を落とし、拳を水落に甲を下にした状態で入れ、水落に突きを沈めながら拳を回転させて正拳にする。この捻じれが大ダメージとなるのだ。


「ぅぐっ!?」


少年は膝をついて地面に伏せる。そして嘔吐した。さらにその背後にいたもう一人のリーダー格らしい少年の側頭に、上段回し蹴りを放った。足の甲を伸ばして左足の軸足をしっかりと回転させ、右足を叩き込む。咄嗟に腕で防ごうとしたが、蹴りに対して反対方向の力で受け止めるのは、衝撃の吸収か力に差があるときくらいにした方がいい。後ろに動くなりして距離を出してから、蹴りの方向に向かって蹴りを流すのだ。
少年は目を回して地面に倒れた。気絶はしていないが、三半規管が言うことを聞かずめまいに襲われているだろう。

ちょうど、伊吹に蹴りを出してきた別の少年がいたため、軽く避けながらその足首を蹴りの方向へ思い切り流す。回転しすぎた体は途端にバランスを崩して、少年がしりもちをついた。


「まだやんなら、手加減しねぇけど」


暗に手加減していたことをにおわせれば、参加してこなかった残りの2人が、立ち上がれもしない3人を担いで去っていった。「覚えとけクソガキ!!」と捨て台詞を残されたが、それは聞かずに伊吹は背後を振り返る。


「大丈夫っぽい。行こう」

「な、なんで…俺らんこと助けてくれたん…?やって、俺らの自業自得やんか」


平然とする伊吹に、元凶である侑が呆然と言った。治といた女子もあのグループの誰かの彼女であったようだし、確かに2人が自分で蒔いた種に巻き込まれた形だ。


「…家族のこと守るの、普通だろ」


だがなんであろうと、2人は伊吹の家族だ。助けることに理由などいらない。守ることに、理由も言い訳もいらなかった。

そう伝えた途端に、侑と治が飛びついてきた。予想通りの反応に構えていたが、体格差があるため衝撃が走る。


「う、わっ!」

「伊吹〜!!ホンマかっこええな〜!!」

「ありがとおな〜!!」


はしゃぐ侑と礼を言いながらぐりぐりと頭を撫でてくる治。二人に抱きしめられて温もりに包まれるのは、まったく嫌ではなかった。


「これに懲りたら、あんま迂闊なことはしねぇんだな」

「もうよそ見なんてできひんよ〜」


侑はそう言って抱きしめる力を強くした。
よそ見なんてできないと言うからには本命でもいるのだろうか。
とはいえそれは伊吹には関係のないことだ、伊吹は気にせず二人の抱擁を享受する。


「めっちゃ強いんやなぁ、伊吹」


治はなおも感動しているのか、しきりに頭を撫でてくる。好きにさせながらも、伊吹は誤解のないよう正した。


「あのなぁ、あくまで今回は相手が油断してて素手だったからだ。俺は地力は強くねぇんだ、拘束されたらどうにもできねぇ」

「そんときは俺が守るからな」

「おい治なにしれっと俺省いてんねん!俺かてやるときはやるで!」


2人も伊吹のことを守ると言ってくれた。もちろん単純な喧嘩であれば2人の出る幕はないが、この2人がそうやって言ってくれたことが、伊吹を心から受けいれてくれているのだと実感できて、嬉しかった。
ただ、嬉しかったのだ。



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