千年純愛−5


2人が途切れ途切れに言うには、あの夢は現実だったこと、その後2人はあの神社の主の元で千年にもおよぶ修行をしたこと、伊吹は何度転生しても両親を亡くし不遇の目に遭っており、2人はその運命を変えるべく努力して、ついに人になれるほどまで強くなったということだった。

侑はぐりぐりと伊吹の肩に目元をすり寄せながら、やっと落ち着いてきたのか鼻を鳴らすだけになる。


「北さんは最後、伊吹の運命を変えられたら、人として現世に降りてええて。せやから、俺と治は、伊吹の魂に纏わり付いとった悪い運命を断ち切ったんや」


2人は、今世において伊吹が両親を亡くすには間に合わなかったものの、これ以上不遇の目に遭わないよう運命の根本を変えてくれたのだという。こうして先の神様に認められた2人は、満を持して伊吹に会いに来た。

恐い思いこそさせられたが、確かに言われるだけでは信じられなかったような話だろう。
もちろん、2人がまったくの嘘八百をついている可能性だってあるのかもしれなかったが、不思議とそれはないと思えた。
あの夢が起きた千年前からずっと、2人が伊吹のために生きてきたのだと、2人からすぐに理解できたからだ。

助けるだけ助けて彼らを放って先に死んで、千年もの間2人が努力している一方で伊吹はそれに気付くことすらなかった。2人はいったいどれだけ、寂しい思いをしていたのだろう。


「……ごめんな、千年間も放って置いて。知らなくて。寂しかっただろ、つらかっただろ。ごめんな」

「っ、う〜〜…!伊吹〜…!!」

「伊吹、伊吹……!!」


侑はまた泣き出して、治はひたすら名前を呼んで抱き締めてくる。

千年もの間、ただもう一度伊吹と会うためだけに努力してきたのだという2人が、無性に愛しく感じた。そして、運命まで変えてくれた2人を千年間も待たせてしまったことが申し訳なくてならなかった。


「きっと俺も、生まれ変わる度に嫌なことあったんだろうし、この人生もそうだったけど……お前らと千年前に会えた、それだけで、十分幸せなことだったんだろうな」


ぎゅ、と遠く感じた体温を埋めるように強く2人を抱き締める。
これからは、千年の愛に、伊吹が応えてやる番だ。



***



ふと気が付くと、伊吹は夕焼けの教室にいた。周りを見渡しても誰もおらず、時計は勉強を終えた時刻のまま。スクールバッグに教材をしまって、寝てしまったとでもいうのか。
耳には放課後のざわめきが聞こえてきて、夕焼けの空には飛行機雲が真っ直ぐ伸びていく。


「は……夢?」


あの恐ろしい体験も、双子も、夢だったのだろうか。まぁ、その方が納得できる。変な夢だったと思う方が自然だ。
どこか、夢じゃなければ良かったと思ってしまうのは、気のせいだろうか。




そして翌朝、いつも通り登校し、授業を受け、クラスメイトのざわめきをイヤホンで遮断して、昼休みになった。
あの夢のせいで、昇降口や曲がり角の影を見ると竦んでしまう。リアリティがありすぎたのだ。


「なんつー夢だ……」

「夢やあらへんよ」


突然、耳元に響いた低い声。
思わずバッと思いきり振り返ると、ニコニコとした侑と、穏やかな表情で手を振る治が立っていた。


「はよ昼飯行こー!」

「なっ、ちょ、」


侑に立ち上がらされ、治に手を引かれる。
有名人の双子と、悪い意味で有名人の伊吹が連れ立っていることに、クラスメイトも廊下の生徒も呆気に取られていた。当然だ、まったく接点がないはずなのだから。


「見てみ、みんなのアホ面!おもろいなぁ治!」

「そらそやろな、爽快やんな」


廊下を進む2人に連れられながら、伊吹もつい口元が緩む。

本当に、突拍子もない。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。


「……ふは、お前らほんと、無茶苦茶だろ」

「当たり前やろ、千年も待っとったんやから!」

「笑た顔もかわええな」


笑ったのなんてどれくらいぶりだろうか。
可愛いだなどと抜かす双子の感性は謎だが、気分はまったく悪くなかった。

きっと次の千年は、たくさん笑えるのだろう。



prev next
back
表紙に戻る