アルコールと春の夜−1
大学2年黒尾×大学1年主
※未成年の飲酒シーンがあります
「…いやぁ、悪いね伊吹」
「ほんとっすよ…」
誰もが声を発しているのではないかという居酒屋の喧騒の中、伊吹は隣に座る大柄な恋人であり高校時代の先輩であり同じ大学の一個上である黒尾に、そう返した。
***
都立音駒高校でバレー部主将だった黒尾と、同じくバレー部でマネージャーだった伊吹は、黒尾が主将になる年度への代替わりを控えた冬に恋人という関係になった。
もとは宮城県で暮らしていた伊吹が、親の離婚と親権を持つ母親の体調不良によって東京の親戚の家にやってきてから、黒尾とは学年が違うにも関わらず同じ時間を過ごす機会が多かった。
それは、黒尾が伊吹と同じシングルの家庭であり互いにシンパシーを感じることが多かったからだろう。やがてそれだけではない感情を揃って持つようになり、そして恋人になった。
翌年の春高、音駒は因縁の相手であり伊吹の後輩が通っていた高校でもある、宮城県立烏野高校との準々決勝に敗れた。そのころには黒尾は進路をはっきりと固めていて、春高の熱が急に冷えていく冬の寒さの中、引退した黒尾は早々に推薦で都内の大学に進学を決めた。
思わず、「全国出場ってすげぇっすね」と言ってしまったくらいには高い偏差値の有名私大であり、そこに推薦で入学するためには極めて狭い門をくぐる必要がある。さらに言えば、その推薦はスポーツ推薦でもない。やはり全国出場という経歴が、スポーツ推薦以外でも非常に有効だったのだろう。
黒尾がこれから目指すのは、さらに狭き門である日本バレーボール協会の新卒採用である。そもそも毎年採用しているものでもないため、黒尾が就活するときに募集しているかもまだ分からない上に、採用人数は一人が普通だ。国際競技として、そして五輪を控える国として、外国語人材が優先されることを見越した黒尾は英語を頑張っているらしい。
バレーボール協会に入って協議の普及に寄与したいという目標は伊吹も聞いていた。黒尾にはとても向いていると思う。
その強く確固とした意思が、黒尾のこの大学への入学を可能にしたのだろう。
そうして黒尾が有名私大に入ってから1年、なんと伊吹もその大学に入ることになってしまった。奨学金などを鑑みて最も学費を圧縮できるところがたまたま同じ大学だったのだ。
まるで恋人を追いかけて入ったようで嫌だったが、黒尾は素直に喜んでいたため毒気を抜かれ、結局伊吹も伊吹で黒尾と同じキャンパスに通うことを楽しみにしていた。
そして現在、伊吹はいわゆる新歓飲み会の場にいる。まったく入るつもりのなかったバレーサークルの先輩に、黒尾と親し気に話しているところを見つかり、黒尾が遊びでそのサークルに入っていたこともあり、あれよあれよとここに連れてこられてしまったわけである。
伊吹は勉強に専念する予定のため、さすがにサークルに入るつもりはない。黒尾もそれは理解しているが、テンションが空回りする上級生たちを止める術がないことも理解していて、せめて隣にいようとでも言うように二人で並んでいた。
黒尾のこじゃれた春物のジャケットの胸元のガムテープには「二男」と書いてある。二年生の男子ということだろう。女子には「三女」などと書かれている。
新入生歓迎会のため当然ここにいる一年生の大半は未成年のはずだが、当たり前のようにアルコールが振舞われている。そういうものなのだろう。伊吹も未成年だったが、目の前にはビールが置かれていた。
高校時代、服装こそ乱れていたが成績や素行については群を抜いて優等生だった伊吹であるが、別にここで目くじら立てて拒否するつもりもなく、また、やはり大学生というものになって酒を飲むことへの期待があるのも確かだった。
騒がしい先輩と、少し硬くなりながらも同じようにはしゃぐ新入生たち。その中で、伊吹と黒尾はどの騒ぎにも加わらずにいたが、それを目ざとく見つける者は多い。
「黒ちゃーん、イケメン独占してんじゃねー」
三年生の女子がジョッキ片手に絡んできて、黒尾は苦笑しながらそれに応じた。後ろから別の女子たちもやってきて、こちらにも詰め寄ってくる。