目が死んどるメガアイドル−1
暗闇の中、自分たちだけが煌煌としたスポットライトに照らされ、照明の輻射熱はステージの熱気をさらに強めていく。
自分たちを照らしこそしないが、眼前に広がるペンライトの海は壮観で、様々な色に光る夜光虫のようだった。そう言えば幻想的だが、実際には熱狂する女性と僅かな男性が振り回すだけに過ぎない。
推しの色、とやらがあるらしく、マーケティングもそれを意識したものであることが多い。どういう経緯でそうなったのかは分からないし、正直興味もなかった。
″SD-5″、男性アイドルグループのドームツアー最終日。会場のボルテージは最高潮だった。
『まだまだいけるよなあああ!?!?』
「キャアアア!!!」
「及川さあああん!!!!」
「ハンガ〜〜〜!!!」
煽り文句を言ったのはリーダー、及川徹。大量の水色のペンライトが揺れる。
『ついてこいよ!!!』
「瀬見くうううん!!!」
「セミセミ〜〜!!!」
「配分考えてええええ!!!」
副リーダー、瀬見英太が男前に言うと、絶叫とともに紫色のライトが波打った。
『どこまでもイっちゃおうぜ!!!』
「にろちゃあああん!!!」
「ぶっ叩いて〜〜!!!」
チャラいウィンクをキメたのは二口堅治、黄緑のペンライトにひらひらと手を振った。
『最後まで盛り上がってください!!』
「とびお〜〜〜!!!」
「ナイス単細胞おおお!!!」
影山飛雄は、笑わないが楽しんでいることは伝わる表情で、揺れるオレンジのラインに手を振った。
最後は伊吹だ。次の曲の準備も大丈夫そうで、リハーサル通り、会場に向けて息を吸う。インカム式のマイクは、的確に声だけを拾ってくれた。
『……倒れんなよ』
「きゃあああ!!」
「伊吹く〜〜〜ん!!!」
「ウィンクしてええええ!!!」
歓声の中にウィンクを求める声が上がり、伊吹は一瞬迷う。できねえのに、と内心で思いつつも、無視はしたくなかった。
声のあった方には白い明かりが揺れる。なぜか白が推しカラーだそうだ。
伊吹はそちらに向かってウィンクをしてみるが、ぎゅっと両目を瞑っただけになってしまう。だがその瞬間、一際高く悲鳴が上がった。
『なにカワイーことしてんの伊吹』
目敏く見ていた及川がそう言うとさらに悲鳴と歓声が響く。本当なら中指でも立ててやりたいが、こんなステージでは間違ってもできない。伊吹は代わりに、及川に向かって、べっ、と舌を軽く出した。子どもっぽいがこれくらいしか「ふざけんな」という意思を示せない。
先ほどから続く悲鳴はさらに大きくなっていた。
『こら、あざとすぎんぞ』
『はぁ……?』
瀬見は呆れたように言うと、伊吹の頭をぽん、と撫で、新たな悲鳴が加わる。及川は目元を覆っていたが、顔を上げて定位置に動き始める。
『伊吹あとでお説教だからね!』
『怒られてやんの〜』
リーダーの及川に倣って他の4人も動き始めるが、二口はそれでもニヤリとしてからかってくる。なんで説教をされなければならないのか解せないでいると、右隣の位置になる影山が近付いて来て首を横に振る。
『今のは説教ものですよ』
『…意味わかんねー』
「拗ねないでー!!」
『拗ねてねえわ!』
「かわいい〜〜〜!!!」
『今可愛いっつったやつ、覚えとけよ?』
伊吹の言葉に笑いと歓声が響いたところで、全員が定位置に並び終わる。耳元では無線がそろそろ始めるよう急かしていた。同時にビートが鳴り始める。
『ほら、次行くからね!いくよ!!』
及川がそう言って、全員の意識が歌い出しに向いた。切り替えを確認したのか、ビートはドラムに代わり、そしてすぐ、爆音で次の曲の冒頭が始まった。