目が死んどるメガアイドル−2
「………疲れた」
ぼそ、と呟いた言葉は、広い楽屋に思いのほか響いてしまった。着替えてバタバタと片付けている他のメンバーが一斉にこちらを向く。
部屋の真ん中にある大きなテーブルに突っ伏して横に顔を向ける伊吹を見て、まず及川と二口が噴き出した。
「ちょ、伊吹、目が死んでる」
そして及川はけらけらと笑い、二口はすかさずスマホを向けてきた。
「このアイドル目が死んどるってストーリー乗せるわ」
「……殺す………」
「大丈夫っスか、バナナ食います?」
「…なんでバナナ持参してんだよ……」
純粋に心配したらしい影山がバナナを差し出してくるが、さすがに楽屋でバナナを頬張るのはアイドルの端くれとしてダメなのでは、と伊吹すら思った。
そう、伊吹がアイドルなどというものをやっていること自体、そもそもおかしいのだ。
***
アイドルグループSD-5は、仙台出身の5人組グループということで名付けられた。
所属するのはHigh-Qエンターテイメント。ハイクオリティの意味らしい。アイドルだけでなく、モデルやアーティスト、俳優など手広くやっている芸能事務所だ。某界隈では「高品質事務所」という名前で通じるという。
SD-5の兄弟グループにはURBANsというのがいる。こちらは東京出身の5人組グループで、リーダーは黒尾鉄朗、副リーダーは木兎光太郎、そして赤葦京治、佐久早聖臣、灰羽リエーフというメンバーだった。
黒尾には「MK5みてえな名前だよな、正直(S)ダセえ(D)5人組的な」と言われたので、「あんたらも不動産屋みたいっすよね」と返しておいた。
「伊吹、最近スケジュール詰まってるよな。大丈夫か?」
からかう及川、二口と天然を炸裂させる影山とは違い、瀬見はきちんと心配してきた。副リーダーだけあり、伊吹の最近の忙しさも理解している。
「あぁ、そういえば伊吹、今ドラマやってるんだっけ?」
「まぁ、はい。ツアー優先だったんで、まだ打ち合わせとか、いろいろ準備段階なんすけどね。明後日から撮影です」
「終わってすぐじゃん、やば」
投稿を終えたらしい二口は少し顔を顰める。及川も笑いから若干心配そうに表情を変え、影山はバナナをもぐもぐとしながら眉を寄せた。
「伊吹さん、最近ドラマとか映画とかCMとか続いてますよね」
「伊吹は演技上手いからね〜、これだけ顔が良くて演技上手いならそりゃあ使うでしょ。早く共演したいね」
及川はなぜか自分のことのように自慢げに言うと、椅子に座って机に伏せる伊吹を後ろから抱き締めようとしたが、近くにいた影山にさりげなくブロックされ静かな押し合いになった。
「次のドラマ、共演すんの牛島さんだったよな」
「は!?にろちゃんそれマジ!?なんッでウシワカ!?!?」
「でた、及川さんのウシワカ嫌い、くそウケる」
二口は笑うが及川は影山を払い除けて伊吹に迫る。
「ねえちょっとどういうこと!?」
「…知ってて言ってんのかと思ってました。牛島さんが天才天然弁護士で俺がその部下って設定っす」
「それ若利演技する必要あるか?」
同じHigh-Qエンターテイメント所属の俳優、牛島若利は瀬見の友人でもある。及川の演技力に、「お前は俳優になるべきだった」と突っ掛かっていたため及川には嫌われている。そんな牛島は内輪やファンの間では天然で知られていた。
同様に、この事務所は所属以前から旧知だった関係が多い。及川の幼馴染みである岩泉一は、「DIVISION CUBIC GARDEN」というロックバンドでドラムをやっていて、昨年に『サワークリームとハニートラップ』という曲でブレイク。
高校時代に二口の先輩だった茂庭要もロックバンドの「public伊達男dism」でボーカルをしており、今まさに『プレデター』で大ヒットしている。
及川の学生時代の後輩だった国見英と金田一勇太郎はロックバンド「Mr. Green Leaves」で活動し『青と城』で知られる。
影山は、俳優の日向翔陽、山口忠、月島蛍、女優の谷地仁花と高校時代の同期だ。
そう考えると、伊吹は特にこの事務所で友人などがいたわけではなく、尚更なぜ所属できたのか分からない。きっかけは、高校時代に及川と地元で知り合って無理矢理誘われたことだ。
シングルマザーの母を経済的に楽させたい気持ちがあった伊吹は、バイト感覚で小金が入れば、などと引き受けたが、あれよあれよとメガアイドルとなってしまった。
その後、伊吹は歌唱力とダンスを評価され、そして試しにと出させられたドラマで一躍評判となってしまい、今ではアイドル兼俳優とも言うべき状態だった。伊吹としては、あまり演技力など自分に感じたことはなかったし、恥ずかしくて自分が出ている作品は見られない。