目が死んどるメガアイドル−3
「はぁ〜、及川さん心配だよ…伊吹、俳優の仕事で色んな男引っ掛けてくるから…」
「人のことビ○チみてえに言うのやめてください」
「まぁ、実際伊吹、色々落としてくるよな。隼人も褒めてたし、川西も」
「セミセミそれあとで詳しく…URBANsの赤葦君だってそうだし、
See!我流の昼神君、俳優の澤村君に烏養さんに
2Foxの双子もそうでしょ?はぁぁ〜、次はウシワカかぁ〜」
身に覚えのない話ばかりだが、共演したことがあり、今も連絡を取り合う仲なのは確かだ。
友人はいなかったが、仕事で知り合った関係はたくさんできた。
しかしなんだかんだ、一番落ち着くのは、やはりこのメンバーだ。
正統派王子キャラで、裏では岩泉に「クソ川」と呼ばれる性格の悪さもあれば素直な明るさもあり、そしてときに年上として優しく導いてくれる及川。
男前兄貴的なところを売りにし、表も裏もなくわりとそのままで、私服はダサいがそれ以外は非の打ち所のないイケメンの瀬見。
伊吹と同い年で、チャラさや性悪さは表でも出しつつ裏のそれはもっと激しいものの、実は面倒見がよく甘え上手な二口。
一つ年下で最年少、あまり笑わないが天然単細胞キャラとイケメンさがギャップとなり、年下らしく慕う姿が人気の影山。
なるほど確かに毛色の違うメンバーが集まってグループを成すというのは、ファンを多様化して数を増やす効果がある。
その中で伊吹は、寡黙でぶっきらぼうな不良という素の姿をそのまま見せている。それでいいと言われたからだが、よくファンになるものだ、なんて思ってしまう。及川や二口には、「その不良さと優しい誠実さがギャップなんだって!あと天然あざとい!」と評されており、それはキャラクターとしてニッチすぎではないかと思う次第である。
恐らく、伊吹一人ではままならなかっただろう。周りにいるのがこの4人だから、伊吹はうまくやれているのだ。
伊吹自身が、ここでなら続けられると思っていることも大きい。
「…別に他の男引っ掛けるとか、そういうのありえねえっすけど。でも、いずれにしても、俺の居場所はここなんで」
伊吹の隣でテーブルに項垂れる及川にそう言うと、他のメンバーの動きが止まる。
その沈黙で、口を滑らせたことに気付いた伊吹は、逃げようと立ち上がったが、遅かった。
「伊吹〜!!!可愛すぎか!!!」
「うぐっ…!」
バッと立ち上がった及川に抱き締められ、瀬見に無言で頭を撫で回される。こうなることは少し考えれば分かったはずなのに、と伊吹は自分の迂闊さを呪いつつ、影山に助けを求める。
「影山…!」
「うっす」
影山はすぐに伊吹を助けようと及川に掴み掛かり、押し合いをしながら瀬見も同時に押し遣ろうとする。僅かに生じた隙間から、伊吹は身を滑らせて二人の間から逃げおおせた。
バランスを崩しながらよろよろと自由になると、その先に二口が待ち構えていた。避けきれず、硬い胸板にぶつかって抱き締められた。
「ハイ、漁夫の利ィ〜」
「は!?ちょ、にろちゃん!?」
影山と押し合いしていた及川は、いつの間にか伊吹を抱き締めていた二口に驚く。二口がこうして混ざってくるのは珍しい。
「そりゃあ俺もSD-5っスから?伊吹のことどうにかしたくて堪んないわけです。ってことで、俺ら先に行ってますね〜」
「あっ、ちょっ、」
及川も瀬見も影山もまだ準備ができていない。対して、伊吹はすでに準備を終えた上でテーブルに突っ伏していたし、二口も及川たちが騒いでいる間に用意を終えていた。
二人分の荷物を持って、二口は伊吹の肩を抱いて楽屋の出口へと向かう。
廊下に出ると、及川たちが喧しく騒ぎながら慌てて準備する声が聞こえてきていた。
「……あほくさ」
「嫌いじゃねーんだろ?」
ニッと笑った二口に「うるせー」とだけ返してから、廊下の途中で立ち止まる。二口も心得たように止まった。
どうせこれから行く先は同じバス、そして打ち上げ会場だ。示し合わせなくてもいいのだが、それでも伊吹が止まったのは、その騒がしさの中にいるのが二口の言うとおり嫌いではなかったからだ。
楽屋から喧しい声が聞こえてくると、表情が緩むのを指摘されないよう、慌ててマスクをつけたのだった。