連載: cuddle eagle struggle−あぁ栄光の白鳥沢学園


「うーわ、マジか……」


思わず漏れたそんな声は、小さくて誰の耳にも届かなかっただろう。
広大な敷地の入り口は、多くの生徒たちで賑わっており、とてもじゃないが伊吹一人の声など拾う者はいない。

仙台市、地下鉄駅の比較的近くにあるような都市部の学校ながら、希望者は寮に入ることができるような金持ち学校。ここ私立白鳥沢学園は、そんな一言で言いあらわせる、宮城を、東北を代表する有名な学校であり、今日から伊吹はここの生徒となる。
そしてこの学園の制服は、白を基調とした紫のアクセントのあるもので、まるでアイドルのそれだ。そんな服を着た生徒たちがわらわらと敷地に入っていくのを見て、思わず呻くような声が漏れるのも仕方ないだろう。

入学式の今日、親をともなう生徒が大半ではあるが、伊吹は1人ですたすたと歩く。事前にクラスを指定されているので、まずは教室へ向かうのだ。恐らく上級生は登校していないだろうが、部活をしているのだろう、運動部用の体育館からは掛け声が聞こえていた。
事前に入寮こそ済ませているが、こうして教室へ向かうのは初めてで、自宅通いの生徒たちが過半数である以上、こんなに多くの同級生を見るのも初めてだ。とはいえ、伊吹はあまり交友関係には興味がなく、入寮してからも特に誰かと関わっていないため、誰もそばにいないのは他と同じである。

クラスは1年1組と分かりやすい。誰にも目をくれず、昇降口から1組の教室までまっすぐ歩いた。どこか浮ついた、テンションが空回りしたような感じは、友達作りのために誰もが必死に猫を被っているからだろうか。
何をするにも一人がいいタイプの伊吹からすれば、そのような努力ができる彼らがすごいとすら思えた。そんなに頑張って、誰かと距離を詰めるのは、もう伊吹にはできることではないと感じている。
教室に入ると、ほとんど席が埋まっている。廊下の喧騒のわりにどこかおとなしいのは、クラスのカラーだろうか。近くの席の生徒と「どこ中なの?」というささやかな会話が広げられているだけだ。前の扉を開けて中に入れば、一斉にそうした目が向く。
嫌だと感じると睨んでいるように見えるからやめた方がいい、というのは、中学時代の先輩から言われたアドバイスだ。たとえ友人がいらなくても、敵を作る必要もないだろうという意見はもっともだったので、睨まないよう、クラスには一切視線を向けずに黒板に貼られた席順を見る。

よく見ると、なんとランダムに名前が配置されていた。普通は名前順だと思うのだが、どうやら担任の癖が強いらしい。席の場所は、廊下から2列目の後ろから2列目。後方ではあるが、教室後方のエアコンの風が直撃する場所なのが気になる。できれば夏までに席替えをして欲しいところだ。

中学までは、席がくっついて配置されていたが、高校からは1列ごとに机はきっちり離れている。その微妙な距離感は、初対面の距離を詰めるのに少し邪魔ではないのだろうか。そんなことが疑問で終わってしまうのは、伊吹がそれを実践して確かめる気がさらさらないからだ。

席について鞄を横にかけると、両隣がこちらを見て、そっと目を逸らした。さすがにこの距離では、不機嫌そうな感じがバレているかもしれない。話しかけない方がいいタイプ、ということは敏感に察したようだ。中学時代はよく不良扱いされていたこともあり、この金持ち進学校に来るような生徒からすれば近づきたい人間ではないはず。

好都合だな、と思いながらスマホを出して弄り始めると、また誰かが教室に入って来た。前方にクラスの意識が向かい、少し驚いたような気配になる。そっと見てみれば、185センチはありそうな体躯の男子がいた。茶髪っぽい髪を緩く立たせたような運動部っぽい男子だ。体の出来上がり方からも、スポーツ推薦で来たとみていい。

白鳥沢学園では、クラス編成は体育祭などを考慮して各種推薦生徒が分散する。概して偏差値の高い学校でもあるため、生徒の成績も分散していた。3年生になると、文系と理系である程度固まるが、文理の違いや成績に基づく授業は少人数の選択科目できっちりと指導されるらしい。
身長からしてバレーかバスケの推薦であろう男性生徒は、眠そうな無表情を、注目される居心地の悪さで少し歪めてこちらに歩いてきた。どうやら後ろの席だったようで、伊吹のすぐ後ろ、この列の一番後方の席についた。こちらも眠そうな無表情から話しかけやすいとは判断されなかったようで、付近の生徒は話しかけずに放置している。2人の周囲の生徒は運がない。

その後、担任らしい少し暑苦しい感じの男性教諭に簡単な説明を受けてから、一同は入学式のため第一体育館に向かう。最も大きな体育館とのことだが、全学年が集まるときにはそれでも満杯になるそうだ。
廊下に出て列になりながら、こういう式典は本当に面倒だ、とため息をつくと、たまたま近くにいた生徒がびくりと体を震わせていた。




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