伊達工バレー部の裏番−3



茂庭がバレー部の番長なら伊吹は裏番だと、以前に鎌先が言っていた。それは鎌先の感想ではなく、どうやら他の部員や生徒たちからも同じように思われているらしい。


「はぁ〜、ほんっと伊吹さんかっけぇ…くそ抱きてぇ〜…」

「うるせぇぞ」


廊下に出て背後に3人を従えて歩くと、すぐに廊下にいた生徒たちが端によって目を逸らした。鎌先が気のいいヤツだとこのフロアの生徒たちは知っているが、いかんせん伊吹も目つきが相当悪いし、二口は何をされるか分からないし、青根だって強面で恐ろしい見た目をしているため、関わりたくないのだ。
その二口は、先ほどから伊吹のことを格好いいだの抱きたいだのほざいている。

それを引いたように見ている鎌先と無言で聞き流す青根。伊吹も散々言われているので軽く流していた。

なぜか二口は伊吹にご執心で、ことあるごとに迫ってくる。今ではバレー部の恒例行事となってしまったが、1年生たちはまだ慣れていないのか、二口が伊吹に迫って足蹴にされているのを見て末恐ろしそうにしていた。


「お前、よく自分のケツ狙ってるヤツと平然と過ごせるよな」

「だってこいつ、いざ俺が誘っても多分無理だろ。散々こう言っておいてヘタレだからな」

「なっ、そんなことないっスよ!」

「へぇ?じゃあセフレになんの?」

「……ちゃんとお付き合いがいいです…」

「ほら、可愛いだろ」

「ぶっは、完全に弄ばれてんじゃん二口!クソウケる!!」

「うっさいっすよ筋肉しか相手いないくせに!」

「あ!?」

「うるせぇぞお前ら。オラ、もう着くから」


いったん2人を黙らせると、伊吹は振り返ってでかい3人を見上げる。


「…チッ、でけぇな削れろ」

「伊吹さんはそのサイズが可愛いですよ」

「そうか、そんなにサンドバッグになりてぇのか」

「すんまっせん!!」


分かっていて二口はこう言ってくるのだから救いがない。
とりあえず、サッカー部へカチ込みに行く前に役割を確認する。


「いいか、まず鎌先はひたすら睨め。ガンを飛ばせ」

「おう」

「青根、眉間に力入れろ。そう、うまいぞ」

「……」


むっ、と眉間にしわを寄せた青根はまったく睨んでいるつもりはないが、睨めと言ってもこの顔ができないのでこう指示した。癒し系のマスコットにしか見えない今日この頃である。


「そんで二口、」

「相手を最大限侮蔑した目をしながら断ろうものならどうしてくれようか嬉々として考えてる笑みを浮かべればいいんスよね?」

「さすが二口、俺が見込んだ性格の悪さだ」

「あざっす!」

「それでいいのかお前…」


さすがに鎌先も呆れる。二口はノリノリだった。こういうのは得意技である。


「たぶん相手も食い下がる。そんで、俺が右手を腰に当てたら次の合図だ。鎌先は盛大に舌打ち、青根は更に眉間に力籠める」

「そして俺はなんて馬鹿なことを言ってるんだこいつっていう嘲笑をして精神的に追い詰めるための策を練っている顔をすればいいんスね?」

「5000兆点」


ドン引きする鎌先をものともせず、褒められた二口は嬉しそうだ。可愛げのある後輩ではあるのだが、ひねくれた性格は確かである。
ある程度の打ち合わせも済んだところで、伊吹はサッカー部の部長がいる教室に無言で入った。後ろの3人も続き、クラスの生徒たちは突然入って来たでかいヤツらに恐怖を浮かべる。その中の1人、日に焼けたサッカー部の部長の席まで進んだ。


「あんた、サッカー部の部長だよな」

「そ、うだけど…」

「単刀直入に聞く。雨だから体育館使いたいってマジ?この大事な時期に?」

「お、俺たちもインハイ目指すし…」

「へぇ。じゃ、市の体育館とか借りれば?」

「わ、わざわざそんな…」


その返答を聞いた瞬間に、伊吹は右手を腰に当てた。途端に、鎌先の盛大な舌打ちが響いて部長はびくっと肩を震わせ、青根を見て息を飲み、二口の方は視線を向けることすら怯えてできなかった。


「もう一度聞くな?……体育館、ほんとに使いてぇの?」

「……や、やっぱいい……」

「そっか、それなら良かった。穏便に済んで」


暗に返答によっては穏便に済まなかったことを匂いわせれば、可哀想なくらい怯えて震えていた。もう用はない、伊吹は3人を引き連れて教室を後にした。わざわざ外部を借りるのが面倒、という程度の部活が上を目指したところでたかが知れている。


「伊達の鉄壁舐めんな」


小さく呟いて廊下に出ると、聞き取った二口が嬉しそうにした。「伊吹さんほんと好きっス!」と言って抱き付いてくる巨体に拳を入れつつ、どんよりとした窓の外を見やる。
3人の圧の強さというだけの意味ではない。鉄壁たる彼らが、本気で上を目指して努力を重ねていることを生半可なことをしているヤツらが邪魔するな、という意味でもあった。二口はそれを正確に理解していたからこそ、嬉しそうにしていたのだろう。

なんだかんだ、こうやって機敏をしっかりと理解してくれる頭のいい後輩が、伊吹も気に入っていた。鳩尾を押さえて苦しんでいたが。




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