伊達工バレー部の裏番−2



「さっき茂庭さんとこ行ってきたんスけど!サッカー部に体育館半分貸すって!」

「あぁ…その話な」


のっそりと前にいた鎌先も起き上がった。「挨拶ぐれぇしろ」と睨むが、二口は気にした様子もなく、「ちーっす」とチャラい挨拶をかました。こうして鎌先をからかっては、主将である茂庭要に怒られていた。
二口は我が物顔で隣の席の椅子を伊吹の机に並べて、隣に座ってくる。背が高く体格も良いため、二口と青根は全学年から怖がられており、二口はそれを分かって利用している。実際、性格が悪いのは二口だけで、青根はただ強面なだけの心優しい青年である。今も青根はきちんと立ったままでいた。


「今はインハイに向けて新しいチームの調整する大事な時期なんスよ!?なのに、雨が続いてグラウンド使えねぇからって、サッカー部が体育館半分使うとか…!俺らより結果出してから出直せって話っスよ!」


そうやって憤る二口は、チャラくて性格も悪いが、部活に対して一生懸命なのを皆知っている。だから、問題児であれど仲間として大事にされていた。
二口はどこから聞いたのか、雨が続いて筋トレしかできないサッカー部のために、体育館を半分貸してやるという話に憤慨し、主将たる茂庭のところに直談判しに行ったらしい。


「で、もっさんはなんて?」


鎌先は初めて聞いた話だったようで、茂庭の言葉を気にしていた。図々しい態度への怒りは鳴りを潜め、今度はサッカー部への苛立ちに切り替わる。単細胞なのだ。


「茂庭さんは、『雨だしサッカー部も練習できないのは可哀想だから仕方ないだろ』って。そんな生易しいこと言ってる場合ですか!」

「もっさん…まぁ確かに、他の部活に強く出られるようなヤツじゃねぇよな、二口と違って心優しいしよ」

「一言余計じゃないですか?」

「あ?でも青根も頷いてたぞ」

「青根!?」


鎌先の言葉に頷いていた青根に二口は裏切られたとばかりに嘆くふりをするが、すぐにため息に変わる。


「…にしても、茂庭さんがなんも言わないんじゃ、ほんとに半分持ってかれますよね。あいつら、どうせフットサルで遊ぶだけっスよ」

「…茂庭が、なんか言う必要ねぇからな」


そこで伊吹はようやく口を開いた。二口はそれを聞いて怪訝な顔をする。青根も首を傾げた。そういうあざとい仕草を微笑ましく感じるようになったら生粋の伊達工バレー部である。


「茂庭は主将であり部長だ、他の部活に『こっちのが優先だから筋トレでもしてろ』なんて言えるわけねぇだろ。それに、そんなこと別に茂庭は言う必要ねぇ」

「必要ないっての、なんでっスか」

「茂庭は、二口にああ言うことでお前らが俺んとこに来るの分かってたはずだ。そんで、そのあと誰が動くか、茂庭は分かってんだよ」

「…え、伊吹さんが動くんスか?」


頭の回転が速い二口はすぐに言い回しに気づいた。鎌先は遅れて理解している様子である。
そう、茂庭はもともと温厚であるし、部長としての立場からサッカー部に強く言うわけにもいかない。バレー部ほどでなくともサッカー部も強いからだ。部活どうしの余計な諍いは避けるようにするのが茂庭の立場である。
だが茂庭とてこの時期に体育館を使われることに何も思わないでもない、何もしないわけでもない。恐らく、ちょうど二口が来たため利用したのだろう。


「部長の立場で強く出られないなら、他がやればいい。ただの優しいヤツには、伊達工バレー部の部長は務まんねぇよ」


そう言いながら伊吹は立ち上がる。別に、茂庭に体よく役割を押し付けられたとは思わない。適材適所だ。とても優しい茂庭だが、したたかなのだ。茂庭は自身の言葉が二口を動かし、それを機会に伊吹を動かすよう煮え切らない言い方をした。それを伊吹がくみ取って動くことまで織り込み済みだろう。


「鎌先、二口、青根。行くぞ」

「…?伊吹さん?どこ行くんスか?」

「サッカー部の部長んとこ」


鎌先は伊吹が何やら考えているのを見て、自身の行動を託すことにしたらしい。付き合いが長いだけあり、言われた通りにするのが合理的だと分かっている。難しいことを考えるのは茂庭や伊吹の役目で、その決定を信じてくれている。
一方、二口もよく考えるタイプであるため、体育会系の癖でついすぐに立ち上がって応じつつも疑問符を浮かべていた。


「え、まさか頼みに行くんですか?伊吹さんが?」

「何言ってんだお前」


しかし伊吹はそんな二口の疑問をばっさりと否定する。
そして、自身の親指を立てて、首の前で横にガッと切る仕草をした。


「カチ込みに行くんだよ」





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