第四話: Völkerschlacht−8
そして最後に調印されたのはマスカット条約で、これによって中東が終戦した。調印国はロシア、ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニアのほか、中東のすべての国家、オマーンを除くアラビア半島のすべての国家、そしてエジプト、リビア、パレスティナ、インドである。ゴラン高原のイスラエル領有を認める代わりに、イェルサレム市国が成立、ガザ地区はエジプトが併合し、ヨルダン川西岸地区をヨルダンが併合した。
シリア、レバノン、イラク、クウェートは統一国家となってトルコ・イランとサウジアラビア、イスラエルの緩衝材の役割を果たすことになり、アラビア語でティグリス・ユーフラテスを意味するディジュラ=ワルフラート連邦共和国(首都バグダード)を構成することになった。
各国は、オロンテス州(州都ラタキア)、アレッポ州、西アッシリア州(州都デリゾール)、レバノン州(州都ベイルート)、ダマスカス州、西シリア砂漠州(州都ホムス)、東アッシリア州(州都サーマッラー)、北カルデア州(州都ディーワーニーヤ)、南カルデア州(州都バスラ)、バグダード首都州、東シリア砂漠州(州都ラマーディー)、ネフド砂漠州(州都サマーワ)、クウェート州、クルディスタン自治共和国(首都アルビール)に再編された。イランとトルコはクルディスタンに領土を割譲した。
ロシアはアゼルバイジャンにカスピ海の領海を、ジョージアに黒海の領海を割譲している。
南イエメンはアデンを首都とするイエメン=アラブ連邦共和国に、北イエメンはサヌアを首都とするイエメン=イスラーム共和国として成立した。
これらの条約をまとめ、再び国連はジュネーヴにて会議を行った。一部の補填をしつつ、これまでの安保理の構成を変えることが議題となった。
こうして、ジュネーヴ終戦条約が締結される。
これによって常任理事国は米国、英国、EU、日本、ロシア、中華連邦、インド、南アフリカ、ブラジル、豪州の10カ国・地域となった。
こうして第三次世界大戦は終結したが、世界には別の懸案があった。それは魔法だ。戦争を終わらせることになった新たな戦力である魔法だが、伊吹の強すぎる魔力に対して中国や韓国が懸念を示しており、魔法を持たない国々は不公平感を感じていた。また一方で、魔法によって核兵器を廃絶するチャンスになるという希望もあった。もちろん、科学と合わせて文明をより豊かにする可能性も秘めている。
そうした魔法の秩序を国際社会に与えるため、戦時中に魔法を手にした国々と、持たざる国を含めた枠組みによる会議が始まった。
ニューヨークの国連本部で、戦後初の臨時総会が開かれ、二つの条約が採択された。
「魔法科兵及び魔法兵器に関する包括的軍縮条約: 魔法軍縮条約(The comprehensive disarmament treaty on magic troops and magic weapon: Magic Disarmament Treaty)」は、魔法科兵の保有量と、核保有国は核兵器と魔法戦力のバランスを取り決めた。各国は魔法科兵の配備を200人まで、概ね2個大隊までと制約され、核保有国は核弾頭と魔法科兵、通常戦力の割合を国ごとに決められた。
「魔法の民間利用制限と国際魔法機関設立に関する条約: IMA条約(The treaty limiting commercial use of magic and establishing International Magic Agency: IMA Treaty)」では魔法の利用を完全に許可制とし、国際魔法機関IMA(International Magic Agency)が審査の上で企業や国家に対して許可を出す。その監査・監督を一括して行う国際機関であるIMAはジュネーヴに設置されることになった。
これらの条約が締結されたあと、魔法科兵を持つ国々のほとんどである17カ国が日本に集まり、横浜会議が開かれた。実際に魔法科兵を持つ国によってより実務的な規定を作るためだ。
この会議で、横浜議定書が採択された。議定書とは、明確な決まりはないものの、基本的には既存条約に付随する国際法として締結されるが、横浜議定書も魔法軍縮条約とIMA条約の補足として締結される運びとなった。この二つの条約と横浜議定書を合わせて魔法国際法という。
正式名称は「魔法兵に関する非人道的行為及び戦略核兵器クラス魔法の使用の禁止に関する横浜議定書: 横浜議定書(Yokohama Protocol on the prohibition of inhuman treat to magic troops and the strategic nuclear weapon class magic: Yokohama Protocol)」であり、魔法科兵を持つ17カ国をM17と呼ぶようになった。M17の国は米国、カナダ、豪州、ニュージーランド、シンガポール、台湾、韓国、中国、日本、ロシア、インド、イラン、トルコ、イスラエル、英国、スイス、スウェーデンから成る。
このM17による横浜会議で最も重大な議案となったのは、他ならぬ伊吹の扱いだった。たった一人で戦略核兵器級の魔法を使える伊吹は、世界にとって脅威となっている。
魔法国際法によって伊吹の存在は国際法違反となったが、日本は横浜会議において、伊吹を殺すことは当然できないこととして、その上で民間人となることのリスクを鑑みて兵科にいるべきであり、定期的に国連のIMAで検査を受け、かつ国防陸軍第一魔法科大隊が監査を受けることで合意させた。この合意は横浜議定書附属書1Cに定められた。
こうして戦後国際秩序が形成され、世界は再び平和を手にした。魔法についても一応の決着を見て、今度は平和のために魔法を使おうという機運が高まっていった。
しかしそれはあくまで、目に見える範囲のだけの話だったらしい。
戦争によって破壊された戦前の秩序はもう戻ることはなく、新たな脅威が世界に首をもたげようとしていた。