第三話: Demon City of the Orient−17


数時間前、港珠澳大橋。

佐久早と名乗った男の光電子魔法によって、直列魔法を展開していた二口が腹を貫かれ倒れた。赤葦が叫んだのを昼神は初めて聞いたし、その後及川の言うことを聞かずに突っ込んだ赤葦にも驚いた。
赤葦のたたみかける怒濤の攻撃を古森が受け止めている間に、侑と及川は佐久早への攻撃に集中した。昼神は彼らの防御のために魔法を使っていたが、隙を突かれて赤葦を古森が吹き飛ばし、さらにその首を絞めながら遠く離れた場所へと連れて行ってしまった。及川はそれを追いかけていく。

こうして、佐久早に対して侑と昼神の二人が対峙した。背後では二口が血を流している。どう見ても危険な量だった。

佐久早はなおも攻撃をしようとする侑と昼神に対して、首をかしげた。


「…お前ら、俺と同類か」

「はぁ?」


侑はキレ気味に聞き返した。あれで仲間思いなところがある、二口や赤葦がやられたことでかなりキレているようだった。それでも冷静さは失わないあたりさすがである。


「伊吹のこと、お前らもだいぶキてんだろ」

「なに…?」


ここで伊吹の名前が出ると思わず、侑と昼神の動きも止まる。佐久早はそこで攻撃態勢を解いて、警戒はしつつも敵意をしまった。いったい何を言い出すつもりなのか、天童のように洗脳ができる魔法使いもいるため、昼神は佐久早の言葉に引き続き警戒しつつ出方を待った。


「深圳で伊吹に対して、117階の人質に紛れ込んだ仲間が盗聴器をつけた。今まさに伊吹と戦ってる頃だろうな」

「ほーん、それで俺らん会話聞いとったわけや。気持ち悪」


侑が煽るように言ったが、佐久早は特に気にした様子ではなかった。侑の方を見て、感情の読めない瞳でじっと見つめる。


「な、なんやねん…」

「お前は口だけ」

「はァ!?」


次に佐久早はこちらに視線を移した。昼神もよく感情が読めないと言われるが、こいつは大概だと思う。


「お前は半端」

「…へぇ?」

「既存世界の常識の中で伊吹を守ってどうすんだ。この世界は伊吹に優しくねぇのに」

「なにそれ、哲学?」


馬鹿にしたように笑う昼神だが、やはり佐久早はどうでもよさそうだった。深圳からここに至るまで、そう深い話などしていない。短く簡素な会話でどこまで分かったというのか。
いや、分かるから「同類だ」と言ったのだろう。
昼神は嘲笑したが、しかし佐久早が言っていることを正直理解していた。侑も少し考えて、どうやら合点はしたようだ。

侑はよく伊吹を守ると口では言うものの、しかし本当に伊吹を救えるのは自分ではないと一線を引いている。そのくせに、うちに秘める伊吹への思いだけはどんどん育っているのだ。
一方で昼神は、これは昼神自身が感じていることでもあった。伊吹は世界の平和のために生きたいと言っているし、それはとても崇高で伊吹らしい優しさだと思っているのだが、しかしこの世界は伊吹に対して残酷だ。伊吹の思いも努力もすべて、第三次世界大戦と国防軍の方針によってなかったことにされた。怪物だの死神だのと言われ、戦争が終われば途端に厄介者扱いだ。
伊吹が守りたいというこの世界は伊吹を守ってくれなくて、伊吹を守れる牛島や及川は日本や世界を優先すべき立場に甘んじている。以前、昼神は日本と伊吹なら伊吹を優先すると言ったが、結局それをどう実行するのか自分の中にあるわけではないし、仮に日本より伊吹を優先したとして、その先どう生きていくのか、最初から軍人だった昼神に他の選択肢は思い浮かばなかった。この世界が世界である限り、伊吹は幸せになれないのではないか、そう思うこともあった。

そこに、烏養から撤退を告げる無線が入った。聞こえていたらしい佐久早は、伊吹が無線で烏養に了解を返すのを聞いて海へと向かう。


「まぁ、お前らもまだチャンスはあんじゃねぇの」


そう言った佐久早に何も返せないまま、昼神と侑はただ無言で見送る。撤退が指示された以上、深追いはできない。佐久早は側壁のブロックに立つと、こちらを振り返る。


「俺たちはVASNA。敵か味方かはお前ら次第だ。じゃあな」


そして佐久早は迷彩魔法によって姿を隠しながら飛び降りた。恐らく風気魔法だろう。
敵に決まっているのに、ヤツの言葉は頭の中に残る。今まで昼神の中にあったことが、佐久早によって言語化され、より意識されてしまったという方が正しい。


「なんなんやあいつ…」

「…さぁね。考えるのは上の仕事だよ」

「…せやな」


そんなことを言って、互いに考えてしまう性質なのはよく分かっている。ただ、佐久早と違うのは、昼神たちは常に伊吹のそばにいるということだ。佐久早たちのように、離れた場所でろくに伊吹のことも知らないのにこじらせるようなことはない。


「守りたいなら、そばにいなきゃね」

「…ふは、うん、そん通りやな」


確かに二人は考えるタイプだ。しかし、案外答えがシンプルであることも知っているのだ。


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