第一話: Persona Non Grata−1
第一話:
Persona Non Grata
『Delta to Bravo, Euljiro-3-ga AAA and SAM were bombed. Nontrivial damage.(デルタからブラボー、ウルチロサンガの対空兵器と地対空ミサイルがやられた。ダメージ甚大)』
『They are our MIM-72 series, right? Over.(まさか俺らのMIM-72シリーズか?送れ)』
『Overlord, negative. It’s Rapier. NEO in this area is taken by UK.(いや、違う。レイピアだ。このエリアの非戦闘員退避行動は英国が指揮していた。)』
『Copy that. Bravo to Command, NEO in Euljiro-3-ga is in emergency. Quantitative support is necessary. Over. (了解。ブラボーから司令部、ウルチロサンガにおける非戦闘員退避行動は危機的状況にある。量的支援が必要だ。送れ)』
『聞こえた?伊吹、出番だよ』
「了解、目標ホテル周辺地区に邦人なし、直行する」
伊吹は短く答えると、狭い路地裏で伊吹の前後に並ぶ長身とそれぞれアイコンタクトを取る。前に一人、後ろに二人だ。一番前にいる特徴的な黒髪の男がにやりとする。
「特殊工作分隊”Silent”の初仕事だな」
「マジそれやめてくださいよ、黒尾さん」
「くそダセェっスよ」
「伊吹も二口君もオブラートに包まないよね〜」
「「お前が言うな」」
二人の声が重なる。先頭の男、黒尾鉄朗はそれに苦笑すると左手を挙げる。フィンガーレスの黒い皮の手袋は全員がつけている貸与品だが、黒尾がしているだけで厨二病くさく見えた。
しかし実力は確かで、左手が挙げられるのを見て伊吹たち三人は黙る。無駄口は終わりだ。
「原始不可視化魔法展開。昼神、二口、任せたぞ」
黒尾の鋭い言葉に、伊吹のすぐ後ろにいた二口堅治とその後ろにいる昼神幸郎が頷く。
「外発孤立空間魔法展開、昼神サボんなよ」
「俺への信頼なくない?ま、了解。外発孤立空間魔法展開、二口君こそ遅れて伊吹怪我させるようなことしないでね」
「それだけはねえよ」
『敵ミサイル攻撃接近中、ターゲットクリティカル』
なおも煽り合う二人を含め、全員にインカムから無線が届く。声の主は若干苛立っていた。早くしろということだろう。
「怒んなよ研磨」
『早くしてクロ、おれも怒られるんだからね』
「はいはい」
無線の主は弧爪研磨、黒尾の幼なじみである。その的確な指示の元、黒尾は左手の人差し指と中指を揃えて前へ向けた。その合図とともに、一気に四人は走り出した。
路地裏から広い通りに出た途端に、初秋の暖かい空気に硝煙が混じった息の詰まるような空間となった。あちこちで響く銃撃音、戦車の走行音とアスファルトの砕ける音、ミサイルが空を切る鋭い音と戦闘機の遠く響く轟音、そして爆発音と悲鳴。音という音が満ちる狂ったような恐慌状態だった。
街路樹や街灯がなぎ倒され、道路の舗装は外れ、ガラスや外壁が歩道に散らばり、うち捨てられた大量の車が埃を被って道路を埋める。ハングルの書かれた看板がいくつか外れて車を押し潰している場所もあった。
ところどころ道に面する雑居ビルが崩れ落ちて道を塞ぎ、スラムのような低層住宅から火の手が上がる。まだ残っていた市民がたまに合間を走って行き、野良犬が悠然と歩いていた。
雑居ビル越しに見える高層ビルは上部と中央部に穴が開き、潰れたフロアの床や天井、ブラインド、電線などが垂れ下がり煙とともに宙を漂う。高層ビル街のあたりには書類が空中を無数に散らばり光を反射して光っていた。
ここは韓国の首都ソウル、
乙支路3街。現在、北朝鮮によるミサイル空爆によって地獄と化していた。