第二話: פרו ו:רבו ו:מלאו את־ה:ארץו:כבש:ה−2


静岡県、御殿場市。

国防陸軍の富士駐屯地に設置された連合軍統一特殊兵科連隊第二中隊の屯所は、他の主要施設からかなり離れた野原に建てられ、車でなければ敷地の外に出ることができないような辺鄙な場所にあった。その距離感が、政府の魔法使いに対する評価そのものだった。

軍内部でも「特兵連」と呼ばれるこの中隊は41人の兵士を抱え、全員が魔法使いである。そして、日本の魔法使いの全員がここにいるということでもあった。

連合軍という多国籍軍において、統一特殊兵科連隊はとりわけ多国籍の部隊となっており、指揮系統は形の上では米国の下についてはいるものの、参加国の政府による干渉も著しく強いものとなっている。そのような組織柄、隊内での言語は英語に限られており、部隊にも英語名がつけられている。

この第二中隊は日本国籍の兵士のみで構成されるため、”Fujiyama”というコードネームが付与されていた。その名の通り、富士山麓に駐屯し、今も訓練を行っていた。

広大な草原、民間はもちろん、軍の施設すら視界にないほど周囲には何もない。草原の遥か先に富士山が雄々しく聳える。そこに41人が小隊ごとに並び、中隊長の烏養大尉が中隊の右手から指示を出す。
開戦から1年半が経って26歳になった伊吹は、さすがに少し老けて男盛りの30代らしくなった烏養の後ろに立ってそれを眺めていた。


「それでは訓練を開始する!第一小隊”Kurikoma”から!」


鋭い声に従って一歩前に出た10人。小隊長は溝口である。溝口は並んだ他の9人に対して声を張り上げて指示する。


「攻守直列展開!」


その声とともに、4人と5人に分かれて固まり、そして魔法を発動した。

まず、その中でもひときわ目立つ外見の良さをしている及川が隣のさらに背の高い男に見えるよう、右手の人差し指と中指をそろえて出して合図した。それを見た男、松川一静は「直列衝撃魔法術式展開」と低く唱えた。続いてその隣の花巻貴大が同様に「直列衝撃魔法術式展開」とつぶやく。それらを受けて、男前な顔立ちの岩泉一が同じ言葉を繰り返すと、最後に及川に視線が集まる。


「直列衝撃魔法術式終末展開」


及川は3人からのリンクがうまくいき莫大なエネルギーを感じ取ったのか、にやりと笑みを深めて言った。直後、及川の正面から草原に向かって、著しい衝撃波が放たれた。音速を超えたのか、衝撃波は空気を纏い一瞬だけ白く目に見える。そして、わずかに遅れて爆音が轟き、草原の草が空気中に勢いよく舞い上がった。集合地点から1キロ離れた目標のコンクリートに少ししてから衝撃波が到着し、吹き飛ばす。高く舞い上がった的は、とても石の塊とは思えなかった。


魔法は、連隊内、すなわち国際基準として、必ず「発動方法+種類」で名前が決まる。

直列魔法は、同じ魔法を複数人が展開して魔力によって接続し、それを最後の一人が終末展開することで発動する魔法のことである。直列繋ぎの電池のように、そのエネルギーは跳ね上がり、莫大な力となる。ただし、魔力によるリンクは難しく訓練が必要である。また、それが可能なチームワークの構築も難しい。

及川たちが直列させた衝撃魔法は、その名の通り衝撃波を放つ魔法である。


及川たちの横では、同じ直列魔法によって防御が構築されていた。

まず魔法を発動したのは茂庭要。直列魔法の起点は魔法を維持し続け後続に展開される魔法を受け止める安定性が必要となるため、限られた者にしか務まらない。続いて、背が高く筋肉の塊のような鎌先靖志、貫禄のある顔立ちに見えてしまう笹谷武仁、最も背が高い青根高伸と続く。

そして最後に二口にリンクした。


「直列孤立空間魔法術式終末展開っと」


慣れたように二口が言うと、彼らの目の前に真っ黒な壁が突如として現れた。高さ30メートル、幅60メートルほどの巨大な壁はまったく光を通さず、黒以外の何物でもない黒は自然のものではなかった。また、これだけの壁であるにも関わらず、薄さはごくわずかで、真横に立つと見えなくなりそうなほどだった。

孤立空間魔法は、物理学における孤立系を創り出す魔法だ。孤立系とは、外界に対して一切の質量・エネルギー・熱などをやり取りしない世界のことで、宇宙空間の外側に空間があるとするならば、この宇宙そのものが孤立系となる。先日、ソウルで二口と昼神がミサイルを止めた魔法だ。


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