第二話: פרו ו:רבו ו:מלאו את־ה:ארץו:כבש:ה−3
伊吹は多くの魔法を使えはするものの、防御系はてんでだめだった。そのため、伊吹は常に守ってくれる防御役を必要とする。とはいえ、もともと軍人だった彼らと文民上がりの伊吹では基本能力にも差があるのだが。
第一小隊が下がると、今度は烏養の指示で第二小隊"Takao"が前に出る。コードネームはいずれも山の名前であるようだった。小隊長は直井大尉で、さっそく木兎がやかましく飛び出しているのを引き留めていた。大変そうにしているが、逆に言えばあの隊は木兎以外に問題児が一人もいない。その点、溝口の第一小隊はくせ者揃いでこちらも気苦労が多そうだった。
「ヘイヘイヘーイ!!行くぜあかーし!!!」
「うるさいですよ木兎さん」
やかましく呼ばれた赤葦京治はおとなしく落ち着いているが、伊吹と同い年で、隊内では年下組だった。ただ、木兎の子守役のようになっているため、まるで母親のようだともっぱらの噂になっている。それを言うと静かに怒られる。
「木兎、赤葦、木葉、鷲尾、猿杙、鷲尾と黒尾、海、弧爪、夜久で分かれて各個攻撃!!」
だがさすがに軍隊、直井が言えばすぐに全員指示に下り、言われたとおりに二手に分かれた。
まずは攻撃主体の木兎たちが一斉に攻撃魔法を展開する。
「原始破砕魔法展!開ッ!」
「不等価衝撃魔法展開」
木兎の攻撃は破砕魔法、対象の物体を内側から破砕する魔法である。原始魔法は魔力から魔法への展開を最も簡単に行うもので、余計なことをしていない分、攻撃速度が上がる。しかし魔力量が多くなければ原始魔法は威力が弱まってしまうため、基礎魔力に依存する。
赤葦の不等価魔法は、魔力に対して発動する魔法の効果を不釣り合いなものにする魔法である。放出した魔力以上の効果を発生させるため、極めて難しいコントロールが必要になる。
「原始衝撃魔法展開、」
「干渉衝撃魔法展開!」
続くのは鷲尾辰生と木葉秋紀。鷲尾も木兎同様、もとの魔力の大きさにものを言わせたごり押しである。しかしそれを、木葉の魔法がアシストした。干渉魔法とは、他の魔法に干渉して発動する魔法のことだ。非常に高度な魔法であるが、自身の魔力をほぼ使用しない。鷲尾の衝撃魔法は、木葉の干渉によってその方向を不自然に曲げて相手に向かっていった。
一方、攻撃を向けられた黒尾たちの方でもすでに魔法が展開されていた。
「不等価可視化魔法…夜久くん、お願い」
「了解!」
迫り来る魔法に対して、弧爪はあらゆる任意のものが見えるようになる可視化魔法を効率よく不等価魔法で使用し、木兎たちの魔法の影響座標を正確に予測した。すぐに年上ながらため口で夜久衛輔に指示する。夜久は全幅の信頼を置く弧爪の言葉に二つ返事で頷くと、「独立外発閉鎖空間魔法術式展開」と長い魔法を口にする。
伊吹も可視化魔法を使って草原を見ると、複雑な魔法式が展開されているのが見えた。
魔法というと、魔方陣によるオカルト的なものが頭に浮かぶが、そんなものは当然だが見えない。魔法は爆発や衝撃波などそれによる効果の部分しか目に見えず、魔力だって見えるものではない。しかしそのエネルギーの流れを見ることができるのが可視化魔法だった。
収束し効果を生み出す魔力は魔法式と呼ばれる、いわゆる魔方陣のような幾何学模様を生み出す。雪の結晶のように、自然界における魔力の放出が形を成すのである。
魔法によって種類は異なり、丸いものもあれば四角であったり複雑な多角形であることもある。複雑であればあるほど角が多くなり、規模が大きければ大きいほど式も大きくなる。可視化魔法でしか見ることのできないそれを見て、弧爪は素早く魔法の種類と影響範囲を特定し、指示を出せるのだ。
夜久の発生させた魔法式は独立魔法と外発魔法を組み合わせて閉鎖空間魔法を展開させたものだった。
独立魔法は術者から離れ、その魔力の流れすら絶ち、完全に単独で存在することができる魔法である。外発魔法は、魔法の展開の段階だけを外部に起因させる魔法だった。そして閉鎖空間魔法とは、孤立空間魔法と違い、物質のみを外部とやりとりしない閉鎖系という空間を生み出す魔法である。
木兎の破砕魔法が地面を砕いて破壊すると、大量の土砂が舞い上がって赤葦の衝撃魔法に乗って黒尾たちに勢いよく飛んでくる。それを、弧爪がベストなタイミングで夜久の外発魔法のトリガーとなる魔力の注入を行い、夜久から離れて草原に展開されていた閉鎖空間魔法術式を発動させる。
それは目には見えないが、飛んできた土砂は完全に見えない壁によって阻まれ地面に散っていく。
さらに、鷲尾が放って木葉が操作する衝撃波は、黒尾が「反作用不等価衝撃魔法」と唱えて発動した魔法に阻まれた。
反作用魔法は、その魔法に対して加えられたエネルギーを別の方向に跳ね返す魔法のことである。これにより、鷲尾の衝撃波は黒尾の魔法によって真逆の方向に跳ね返り霧散してしまう。
「原始破砕魔法展開、こっちの番だな」
そこへ、坊主頭の海信行がようやく攻撃魔法を展開させた。木兎たちの魔法によって視界が悪い中での破砕魔法によって、木兎たち付近の地面が爆発して巻き上がる。
それを、今度は猿杙大和が「反作用衝撃魔法てんか〜い」と緩く言って跳ね返し衝撃波に置換、他の土砂はひときわ背が低い小見春樹が「等価孤立空間魔法展開っ!」と言いながら発動した黒い壁によって阻まれる。
等価魔法とは、不等価魔法の逆で、魔力をすべて魔法に置換する魔法のことである。魔力は魔法発動時、実際には他のエネルギーになってしまう。爆発で発生するエネルギーが熱エネルギーの他に光エネルギーなど複数存在するのと同じだ。それをすべての魔力を正確に魔法にすることは非常に難易度が高いとされる。
猿杙が反作用魔法で放った衝撃魔法は、夜久が発動した不等価孤立空間魔法によって無効化され、第二小隊の番は終わった。
鮮やかかつ余裕に複数の防御魔法を扱う夜久はやはり天才だな、と伊吹は独りごちる。夜久が後ろにいるときの安心感は別格だ。