邪竜百年戦争オルレアンI−2
状況の確認も済んだところで、唯斗とロマニは揃って召喚ルームへと移動した。床に魔術式が刻まれた、英霊召喚のための部屋である。
薄暗い部屋に入ると、システムフェイトが起動し、青白く魔術式が輝く。魔方陣というやつで、この簡易版であり独自の術式が編まれたものが唯斗の手の甲と手の平にある魔術刻印だ。
「そういや、触媒は?」
「あぁ、今回はなしでいってみよう。君の魔力量だと、正直どんな大物が来てしまうか。まだカルデアの電力供給は完全ではないからね、維持する電力を確保できないかもしれない。本来はマシュの盾を触媒にするけど、あえて触媒なしで召喚して出てきた英霊くらいが今の段階でちょうどいい」
「…めちゃくちゃ失礼な話だな」
「まぁね。でも仕方ない。出てこなかったらマシュを呼ぼう」
「…分かった。じゃあ行くぞ」
普通は触媒なしでの召喚などあり得ない。だが術者のフォローもこのフェイトの特徴だ。
唯斗は右手を術式に向かってかざし、一つ息を吸ってから詠唱を開始する。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ、
閉じよ、
閉じよ、
閉じよ、
閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
青白い光はさらに強くなり、薄暗い部屋は照明など不要なほど明るくなる。
「―――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
カッと眩い光の輪が術式の上に展開し、魔力が急激に放出され、そして光が止むのと同時に気配が一つ現れた。本当にできてしまった、と思わず呆然としてしまう。ロマニは二度目だからか余裕があり、「誰だ…?!」と目を細めて靄の中に目を凝らす。
凝縮されたマナから生じた靄が晴れると、そこから背の高い体格の良い男が現れた。
白髪を後ろにオールバックにして、赤いマントのような腰布が特徴的な姿。
「…サーヴァント・アーチャー、召喚に応じ参上した」
「……ほんとに来た………」
思わずそう呟いてしまうと、アーチャーとだけ名乗ったサーヴァントは首をかしげる。
「…呼んだのは君だろう?」
「そ、うだけど……ちょ、ロマニ、これなんて言えばいいんだ、つか何を話せば…?!」
「お、おお…唯斗君が焦っている…珍しいものを見たなぁ」
「くそ使えねぇな…!」
「え、君本当はそんな口悪いのかい!?」
つい口調すら乱れてしまった。基本的には金持ちの家にいたわけである唯斗だが、余裕がないときはつい口調が乱れてしまう。
それくらいには、いざ召喚が成功するとどうすればいいのか分からなくなった。そもそも人間とすら話さないのだ、英霊相手に初対面の会話など何を話せばいいのだろうか。
「あー…まずは必要な情報の交換をすべきではないかね」
「…そうか。そうだな。悪い、取り乱した」
「切り替え早…」
呆れるロマニをよそに、確かにそうだと唯斗は開き直る。相手が英霊だからこそ、ここはビジネスライクに、欧州で培った挨拶マナーと、マスター・サーヴァントの関係構築に必要な情報を交換するべきだ。
「俺は雨宮唯斗。ここのマスターの一人だ。基本は座から必要な情報がいってると思うけど、今の世界の状況も把握してるか?」
「一応ね。すでに人類史は滅んでいるんだろう。カルデアだけが残り、君たちは人理を復元するための活動中だということは知っている」
「それなら話は早い。これは聖杯戦争じゃない。クラス名だと被ってしまうから、できれば真名を教えてもらえると助かる」
「俺はエミヤという。クラス名でなくとも、恐らく誰も俺のことは知らないだろう」
「唯斗君は知っているかい?僕は心当たりがないんだけど…」
「俺も聞いたことないな…どちらの家の資料にもなかった」
エミヤというアーチャーは聞いたことがない英霊で、ロマニと揃って認識がなかった。正史に実際に存在した人物であればマイナーな人物でも英霊となっており、非実在の人物、たとえば物語の登場人物となると相当に世界で知られている作品でないと呼び出せない。
実在した人物である可能性が高いが、いずれにしても知らないものは知らない。
「悪いエミヤ、あんたの言うとおり知らない英霊だった。恥を承知で頼むけど、戦闘スキルの把握に付き合って欲しい」
「私でなくともそれはどの英霊ともすべきだろうが、そうだな、君も契約は初めてのようだしいろいろと手ほどきをしよう」