邪竜百年戦争オルレアンI−4


本来の時間軸であれば9月になって少しした頃、ついに最初の特異点へのレイシフトが決まった。ブリーフィングのため管制室に入れば、すぐに立香とマシュも入ってくる。揃った3人を見てロマニもデスクから立って3人と向かい合う。


「おはよう、ついにこのときが来たね」


ロマニは改めて、このグランドオーダーを説明した。
目的は二つ。一つは特異点の修正、もう一つは聖杯の回収。この二つが揃って初めて特異点は消失し正史が取り戻されるのだ。
また、いずれの特異点にしても、必ず最初にするべきこととして、マシュの盾による召喚サークル・ベースの設置を行う。通信を安定させ、物資を送ってもらい、戦闘時にサーヴァントを呼び出すためのものだ。

ちなみに、特異点での戦闘は、戦闘のときだけカルデアにいるサーヴァントを一時的に呼び出す。正確にはカルデアにいるサーヴァントの幻影のようなものを呼び出すだけだが、実体も性質も同様に出てくるため、一時的な召喚と言って差し支えない。
現在カルデアにはキャスター・クーフーリンとエミヤがいる。技術的には最初からサーヴァントもレイシフトして特異点に向かうこともできるのだが、カルデアの現在のエネルギー供給量ではできない。唯斗と立香、マシュの3人でギリギリなのだ。
しかしエネルギー供給量が満足になっても最大4人が限界だろうと言われている。それだけ特異点というものは安定していないらしい。

ロマニいわく最初の特異点は中世末期のフランス、最も揺らぎが少ないものだそうだが、何が起こるか分からないのは特異点Fで嫌というほど理解している。


「…行こうか、マシュ、唯斗」

「はい、先輩」

「了解」


立香はしっかり、人類最後のマスターとして覚悟を決めているようで、予備員と称する唯斗の立場を尊重してくれている。楽で助かった。

コフィンに入ってレイシフトの準備を待つ。


『アンサモンプログラムスタート。霊子変換を開始します。レイシフト開始まで、3、2、1、全行程完了。グランドオーダー実証を開始します』


そうして体から重力が感じられなくなり、感覚を失い、直後、体に強烈な引力と重力がかけられると同時に草地に着地した。
よろめいてからすぐに目を開き周囲を見渡す。うっかり敵のど真ん中に着地してしまう可能性もあるからだ。

しっかり目を開くと、眩しい日差しと抜けるような青空に驚く。


「レイシフト、無事完了しました。今回はコフィンによる正常な転移ですので、身体状況に問題ありません」


マシュは早速二人の状態を確認してくれた。立香も異常なさそうだ。


「フォーーウ!!」

「フォウさん!?」

「フォウもレイシフトできるの…?」


すると、小さな白っぽい毛玉が現れた。フォウと呼ばれる例の小動物だ。今回もついてきたようで、3人の誰かのコフィンに入り込んでいたようだ。そのコフィンの人物に結びついてレイシフトしているため、帰り際も問題ないだろう。
マシュの肩に乗ったフォウにじっと見つめられ唯斗はたじろぐ。こういう小動物の類いとは触れ合ったことがない。


「撫でてみますか?」

「い、いや…いい…」


マシュに進められたが、慣れないことはすべきでない。唯斗は断った。
マシュは食い下がるはずもなく、そのまま時間軸の特定を行った。


「…時間軸の座標を確認しました。どうやら1431年です。現状、百年戦争の真っ只中です。この時期はちょうど休戦期間だったはずですが…」


英仏百年戦争は、1337年から1453年にかけて行われた戦争である。欧州に中世の終わりを告げ、この戦争の終結とともに欧州は近世を迎えていくこととなる。

戦争開戦時、フランス王国は領土の4分の1近くにあたる南西部ギュイエンヌがイングランド領となっていた。現在よりも国土の東部国境は西にあり、現在のドイツにあたる神聖ローマ帝国が東側にかなり食い込んでいた。
戦争のきっかけは多くあり、もともと仲の悪い王家ではあったが、このギュイエンヌ伯領だけでなく、北東部のフランドル伯領を巡っても対立していた。フランス領ながらイングランドの結びつきが深かったフランドルは当時の欧州で最も裕福な地域であり、フランドルからのイングランドの影響力を排除したかったフランスはこのフランドル伯領での対立がきっかけで開戦した。
しかし戦い始めたはいいが、フランス王シャルル6世は王家の近親結婚の末に重篤な精神障害を持っており統治能力がなく、豊かなフランドル伯領が離反したことや、東部ブルゴーニュ公国もイングランドについたりフランスについたりを繰り返したことで財政が窮乏。さらにイングランドによる焦土作戦でフランス北部の都市は焼かれ、王都パリまで失い、さらにはペストまで流行を始めており、まさに亡国の危機だった。
フランスがその危機を脱したのは、レイシフトしたこの時代から僅か2年前のはずだ。


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