邪竜百年戦争オルレアンI−5


マシュが百年戦争というものを立香に説明しているのを聞いていると、ふと、唯斗は頭上の青空の異変に気づいた。あり得ない光景に思わず息を飲み、二人に声をかけてしまう。


「…なぁ、二人とも。この空は…俺の見間違いじゃないよな…?」

「空…?」


立香とマシュも空を見上げる。そして目を見開いたところで、通信が入った。


『よし、回線が繋がった!映像も通るようになったぞ!ってどうしたんだい?揃って空なんて見上げて…』

「ドクター、映像を送ります。これはなんですか…?」

『…なんだろう、光の輪…?いや、衛星軌道上に展開した何らかの魔術式か…?』


抜けるような青空に現れていたのは、あまりに巨大な光の輪だった。まるで天使の輪だ。しかし、天使というには薄ら寒いような恐怖を感じる。幾重にも光の輪が重なって、花冠のようだ。


『なんにせよとんでもない大きさだ。下手すると北米大陸と同じくらいか…?とりあえずこちらで解析しておくから、君たちはその時代の調査に専念してくれ』

「ドクターの言うとおりです。やることはたくさんありますから…まずは街を目指しましょう」


霊脈を見つけるにも、この時代の状態を知らなければ危険な場所に突っ込むかもしれない。最低限の状況把握をしなければならないだろう。


「そうだね、行こう。唯斗も大丈夫?気になることがあったら言ってね」

「あぁ」


立香とマシュに続き、唯斗も空から目を離して草原を歩き始める。あんな巨大な魔術式は聞いたことがない。さすがにカルデアでの解析を待たなければならない。
唯斗は二人とともにフランスの地を歩き始めた。まさか、特異点で里帰りとは。

少し歩くと、マシュが足を止めた。立香と唯斗も止まる。サーヴァントだけあって視力も桁違いだ。


「確認…どうやらフランスの斥候部隊です。どうしましょう、コンタクトを試みますか?」

「そうだね」

「なら俺が行く。これでもフランス育ちだしな」

「そういえば唯斗さんはフランスの名門の血筋でもありましたね。心強いです」

「唯斗の地元だったりする?」


そんな大学生が初対面の地元を聞くようなノリで聞くような状況ではないが、いつも通りの立香に呆れつつ唯斗は「違う」と返した。
唯斗が暮らしていたのはフランス北西部、大西洋に着き出したブルターニュ半島だ。ブルターニュはその名の通り、ブリテン、つまり英国の文化を色濃く持つ。フランスは北西部のブルターニュ、北東部のフランドルやシャンパーニュ、パリ周辺のイル=ド=フランス、東部のアルザスとロレーヌ、南東部のプロヴァンス、南西部のアキテーヌで大きく文化が異なるが、その中でもブルターニュは異色だ。他の地域と比べ、ケルト・北欧的な名残がある。これはブルターニュをイングランドが支配していた頃のイングランド文化がケルトや北欧に準じたものだったからだ。
イングランドのストーンヘンジや北欧のルーン石碑に共通する巨石文化がフランスで最も集中しているほか、独自のケルト系の言語も持つ。


「見た感じ、フランス中央部から南寄りって感じだな。北西部の丘陵地帯や北東部の平原とは違う、なだらかな地形だし。まぁそれより時代の違いの方がどう考えてもでかいだろ。まずは俺がコンタクトを取る」


そう言って唯斗は斥候部隊の前に出た。ボロボロの格好で、鎖で編まれた簡素な鎧に身を包んだ兵士たちがぽかんとこちらを見つめる。


「ボンジュー、アンシャンティ。ここらは初めてなんだけど、近くの街を教えてもらえるか?」

「ヒッ…な、何者だ、タタール人か?!」

「構えーー!!」

「やっべ…」


そういえばクォーターとはいえアジア系の顔立ちだった。この時代では初めて見るだろうし、最も近いのは東方辺境にいるタタール人、すなわちモンゴル系やトルコ系の者である。つまり西欧からすれば敵だ。

結局戦うことになってしまい、マシュが奮闘して「峰打ち」で留めてくれた。盾の峰打ちとは何かという話だが、流血の事態は免れた。
しかし兵士たちは撤退してしまったため、状況を窺うためにも尾行して彼らの拠点を偵察することになった。


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