藍色の愛−13
本当に言うだけ言って、マーリンの声は途切れた。異世界に対して正確に声を届けたのだ、マーリンの魔術は極めて高度であり確かなものなのに、内容がこれだ。
げんなりとするが、マーリンの言葉を反芻すると、その内容を理解し、唯斗はばっと顔を上げる。
アーサーを見上げると、アーサーもこちらを見下ろしていた。
「…じゃあ、もうしばらく一緒にいられるってことか?」
「そうなる。あの様子だ、数ヶ月というレベルではないだろう。かなりの長丁場…それが良いか悪いかは考えようだが、いずれにせよ、僕はもうしばらく君と一緒にいられるらしい」
「そうか…」
確かに、カルデアはレイシフトができるため、ランダムな転移よりは確実にビーストのいる場所に降り立つことができる。
そう考えればここに残ることは合理的だ。
「……いや、てか、今のもっと早く言えたよな?」
マーリンの言葉に大きな希望を持てたのは確かだが、つい今しがたとてもシリアスな感じで感情を吐露したばかりだ。さっきのはなんだったんだ、と思ってしまうが、アーサーの本気の気持ちを聞けたのは無駄なことなどではない。
ただ少し気恥ずかしいだけだ。
「…なんだかすまないね、こちらのマーリンが」
「や、もういいや、あいつがいなきゃアーサーとも出会えなかったわけだし、俺は死んでたんだから」
「そうだね、君に出会えた、ということだけは、彼女を褒めてやってもいい」
アーサーの言葉に苦笑してから、ひとつ息をつく。
そしてじわじわと、アーサーともっと一緒にいられるという事実が実感を伴い、唯斗は一気に体が弛緩した。
「…アーサー、」
唯斗はアーサーの右腕に頭を乗せたまま、至近距離でアーサーを見上げる。アーサーもその翡翠の瞳をこちらに向けた。
「今まで俺たちの旅を助けてくれたように、次は、俺がアーサーの戦いと旅を手伝うよ。マスターがいる方がサーヴァントは力を発揮できるってのもあるし。それに…」
「それに?」
唯斗は、カルデアにアーサーが召喚されたときのことを思い出す。あの頃が遥か遠くのことにも思えるが、この1年で、唯斗はそれまでの人生すべてよりも大きな成長を遂げたのだろう。
「…アーサーとカルデアで再会するまで、俺にとって生きる理由があるとすれば、アーサーに再会して礼を言うことだけだった。でも今は、アーサーと一緒に戦うことがその理由になった。そんで、それ以外にもたくさん、理由ができた。それを全部、大切にしていきたいって、そう思う」
「唯斗…うん、そうだね。君は本当に、強く、そして素敵な人になった」
アーサーはそう言って微笑むと、唯斗と額を合わせた。すぐ間近に迫った瞳は、どこまでも深く、優しい色をしている。その奥に見える感情の強さと温かさを、唯斗はよく知っている。
知ることができたのだ。
「君と出会えたことは、僕にとっても本当に大きなことだった。君が隣にいてくれるなら、こんなに心強いことはない。これからもずっと、一緒にいてくれるかい、唯斗」
「あぁ。どんな世界を超えてでも、隣で一緒に立って、同じものを見よう、アーサー」
世界の向こうに何があるのか、まだ二人には分からない。過酷で壮絶な経験をすることもあるだろう。それでも、隣で一緒にいられるのなら、どんな場所でも大丈夫だと思える。
生きる意味も、居場所も、そして愛と希望も、最初から唯斗の中にあったのだと教えてくれたアーサーと、それを未来へと繋げていく。
それが、今の唯斗にとっての、生きていく理由となったのだ。