藍色の愛−12


アーサーの魔力が奥から体に浸透していく感覚は、どこか温かく、筋肉が弛緩するような心地よさを覚える。


「…っ、あー、おれ、アーサーのになったな、ってかんじだ…」

「ッ、君は本当に…!」


思わず呟くと、アーサーはぐっと息を詰めてから、それをゆっくり吐き出し、そのまま唯斗の中からものを取りだした。
ずるりと引き抜かれる感覚はぞっとするような感じがして、唯斗はそれに耐えながら力を抜いて見送った。

こうしてアーサーが離れると、先ほどまで埋まっていたものがなくなってしまったような感覚が、不思議と心まで同じように感じてくる。

アーサーは軽く濡れたタオルで唯斗の腹に飛び散った液体を拭き取ると、掛け布団を二人ともにかける。
二人で布団に包まるような形になりつつ、アーサーは先ほどと同じように左腕で腕枕のようにして唯斗の頭を乗せ、唯斗の体を抱き込む。

先ほどよりも、額をつけたアーサーの胸元にはしっとりと汗をかいていた。

一番深いところで繋がっていたという感覚がなくなったこと、熱が急速に引いていくこと、落ち着いて心も呼吸も整ったこと、そうしたことが重なって、唯斗は思わず口を開いていた。


「…アーサー……」

「ん?どうかした?唯斗」


聞き返したアーサーに、その先が言い出せない。
ぎゅっとアーサーの胸板に顔を押しつけるようにして深く抱きつけば、アーサーは唯斗の後頭部を優しく撫でる。

こんなことを言っても意味がない、言ったところでどうしようもない、そんなことが頭には浮かぶが、アーサーに「すべて見せて」と言われてこの時間を過ごしたからか、歯止めが利きそうになかった。

ギリギリまで言うべきではないのではという気持ちとせめぎ合っているため、唯斗の声が震える。小さなそれは、薄暗く静かなこの部屋だから聞こえるようなものだった。


「…アーサー、」

「うん」

「……―――いかないで」


ぽつり、と落ちた声にアーサーが息を飲む。声に出すとその感情が客観的にも知覚されて、じわりと目が滲む。


「…さびしい、もう、一人にしないで欲しい、アーサーの隣にいたい…」

「唯斗…」

「ごめ、こんなん言っても困らすだけって、分かってんのに…っ、でも、言うだけ、せめて、言うだけは、」

「うん、うん、いいんだよ、唯斗…っ、僕も、君を一人にしたくない…君のサーヴァントでいたい、君を誰よりも先に守りたい、君の唯一でいたい…ずっと愛したいんだ、唯斗…!」


アーサーも声を震わせて唯斗をきつく抱き締める。こんなにも強く思ってくれているということを、アーサーは隠さずに伝えてくれた。
騎士王としてこんなことを口にしないという選択肢も当然あったはず。それでもアーサーは、感情の発露を優先した。

一人の男として、唯斗に向き合ってくれているのだ。



そうしてしばらくの間、二人で体を寄せ合っているときだった。


『いきなり頭の中にダイレクトに失礼〜!』

「ッ!?」

「な、マーリン!?」


突如として脳内に響いた軽快な、いや、軽薄な女の声。唯斗は驚いて声を発することができないが、アーサーはすぐにマーリンと呼んだ。
エクスカリバーの承認を告げる声と同じことから、恐らくこの女性は向こうの世界のマーリンである。


『あぁ、君たちの声も映像もこちらには届いていないから安心してくれ、好きなだけ私を賞賛する声を言ってくれていいよ。そちらのマーリンが面倒そうだったから、誓って君らのあれやこれやを覗くことはしていない。だから今回は一方的にお姉さんから必要なことだけ告げて黙るとしよう』

「……マーリンだな、これは」


このろくでなし感、マーリンで間違いない。性別が変わっても本質は変わらない。
アーサーもひどく呆れているようだった。


『さて、アーサー・ペンドラゴンについてだが、しばらく愛しのマスターと一緒にいたまえ。ビーストIが現れたその世界には必ず連鎖的にビーストVIも現れるはず。カルデアにいれば出会えるはずだよ。だから私の方で転移はかけない。それだけだから、決して、初めて騎士王が少年のように恋をして本気の愛を囁くマスター君との関係を観て楽しんでいたいからなんていう下世話な理由ではないとも!ではね〜』


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