自由の風に吹かれて−10


すると突然、「おめでと〜!!」という声がかけられ、それと同時に立香が二人をまとめて抱き締めてきた。どうやら様子を窺っていたらしい。


「っ、立香?!」

「おめでとうございます、唯斗さん、マンドリカルドさん!」

「よかった、収まるところに収まって」


マシュとオフェリアもそう言ってきて、マンドリカルドは照れながら「ありがとうございます…」と答えている。


「…え、お前ら知ってたのか」

「マンドリカルドは分かりやすいからバレバレだったよ?唯斗も多分そうだろうなって思ってたけど、唯斗はきっと自分じゃ気付けないだろうから、日本式にダイレクトに告白しろって言ったんだ」


さすが立香というべきか、マンドリカルドのことも唯斗のことも立香の方が理解していた。3人にはお見通しだったらしく、この旅行においてもやたら唯斗とマンドリカルドを二人にしようとしたのも彼らの策略だったようだ。


「うわ恥っず…!」

「旅の恥は搔き捨てと言うんでしょう?日本では」


オフェリアは揶揄うように言っているが、唯斗はため息をつきながら「まぁ、ありがとな」とだけ言っておいた。

一頻り二人を祝福し終えたのか、立香は早速とばかりに二人にビールを手渡してきた。古城に併設されたバーのジョッキを持ってきたようだ。見ればマシュとオフェリアも手にジョッキを持っている。


「ハイキングお疲れ様ってのと、二人の関係を祝して!かんぱ〜い!!」


すかさず、立香はジョッキを掲げて音頭を取り、唯斗もマンドリカルドの腕から離れつつジョッキをぶつけ合う。
上品な飲み方をするマシュとオフェリアに対して、立香は盛大にジョッキを呷ってから、説教を垂れた。


「だめだよ、もっとこう、ぐいっといかなきゃ。山登りの疲れとか諸々をこう、がっとさ」

「なるほど…!」


ピュアなマシュは立香の言葉を信じてジョッキを勢いよく傾ける。オフェリアは一瞬だけ迷う素振りを見せたが、それこそ旅の恥というやつだと思ったのか、同じく盛大に半分ほど一気に飲んだ。


「〜〜〜っ!はぁ、ええ、確かに悪くないわね」

「はい、心なしか染み渡るような気がします!」

「でしょ?あ、マシュそろそろきつかったら俺飲むよ」

「あ、ありがとうございます…!」


お金持ちのマシュとオフェリアがこういう仕草をすることは珍しいが、二人とも楽しんでいる。マシュはビールがそこまで得意ではないため、立香が途中から変わる。なお、オフェリアはさらにもう半分を飲み干した。

唯斗もアルコールは強くないことから、疲れもあって酔いやすい状態のため、マンドリカルドが察して手を差し出す。


「俺が飲むっすよ」

「ん、じゃあ頼む」


空のジョッキを唯斗のものと交換するようにしてマンドリカルドはジョッキを受け取って、こちらも一気に残りを飲み干す。程よく飲酒した心地よさが残って、体温があがった体に風が吹く。その風に、オフェリアたちも改めて眼下の景色を見下ろした。


「…本当、この保養地をこんなに楽しいと思ったことは初めてだわ。お父様たちと来るときは、嫌ではなかったけれど、やはり息苦しかったから。友人たちと自由に過ごせることがこんなにも楽しいなんて」

「分かります、オフェリアさん。私もスコットランドが長かったので…この国の自由は、とても心地よさを覚えます」


自由は欧州の最も重要な価値観だ。そもそも、近代的な自由の概念はドイツから生まれた。
一方で、欧州とて保守的な国や地域というものはあるし、そういう家庭だってある。あるいは、自由を標榜していながら平気で差別が起こるのも欧州の特徴だ。

それでも、ベルリンの大学で学ぶ5人が感じるこの自由の風は、全員にとってそれまでとは違う時間を、そしてこれからの新しい未来を期待させるものだった。

そっとマンドリカルドに右手を握られる。ちらりと見れば、まだ少し照れたようにしながらも微笑む、友人であり恋人であるルームメイトの精悍な顔があった。
その手を握り返して、触れ合う肌の熱に目を閉じた。



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