覆水盆に返らず−1


長編とは別のカルデア設定
オルタニキ、カストロ×人間不信気味な主



なぜよりにもよって自分が、人類最後のマスターになどなってしまったのだろう。

そんな疑問を繰り返し続けながら、かれこれ4つの特異点を唯斗は修復し、今ではその疑問を改めて思うこともなくなりつつあった。
グランドオーダーが始まって半年以上が経過し、もうすっかり、この異常事態も日常となってしまった。ぼんやりそんなことを思いながら、最後の敵が絶命したのを見届ける。

唯斗の前で黒鍵を消失させながら振り返る、日に焼けた白髪の少年はいつも通りにこりとして報告する。


「これで本日分の訓練は終了です。お疲れ様でした、マスター」

「お疲れ。ありがとな天草」


クラス・ルーラー、天草四郎。実際の聖杯戦争において調停役として現界する特殊なクラスだということは、召喚術の家系として知っていた。
正規の魔術師ではない唯斗だが、単なる数合わせとして招聘されたわけでもない立場であるため、ある程度の知識は有している。

それでも、このカルデアにおける召喚の特殊性は、既存の知識や常識を軽々と上回る。
この天草というサーヴァントだって、過去に受肉した英霊が再度英霊となって召喚されているというイレギュラーもイレギュラーな存在だ。


「礼には及びません。明日は第四特異点の残滓の空間にレイシフトして、再臨素材の確保を行うのでしたね」

「あぁ。また出ずっぱりで悪いけど」

「光栄です」

「嘘つけ」

「おや、信用がないですね」


現在、カルデアに在籍しているサーヴァントの中で最も連れまわしているのが天草だ。
ルーラーというクラスは、大半のクラスに対して有利を取れる。バーサーカーのように攻撃が通りやすいわけではないものの、相手からの攻撃に耐性が強いため、倒されにくいのだ。

何より、唯斗にとって初めてやってきた高性能霊基の持ち主のハイクラスサーヴァントであるため、頼りきりになっているのである。
特に、職員たちのための食糧などの物資確保、英霊の霊基を拡張する再臨のための触媒素材確保などを目的に、過去の特異点から派生した軽微なひずみのある空間にレイシフトする際には、天草が不可欠だった。

いつも笑顔で引き受けている天草だが、「これだけ周回に連れまわされているのに福利厚生の一つもないのですか」と言いながら、素材の優先順位を自分に優位にさせるくらいのことはしてくる。

面倒だと思っているわけではないだろうが、さすがに「光栄だ」とまではいかないだろうと、唯斗はついジト目を向けてしまう。
天草は苦笑しながら、シミュレーターを終了するコードを起動して演算を終えた。同時に、二人はシミュレーター用コフィンの中で目を覚まし、コフィンを出て息をつく。

この高度なシミュレーターもカルデアの技術の粋を詰め込んだものだが、今はもっぱらマスターの訓練のほか、暴れたりないサーヴァントたちの発散用に使われている。


「…先ほどの話ですが」

「うん?」


すると、天草はコフィンの扉を閉じながら、先ほどの会話の続きを始めた。てっきりあれで終わったと思っていた。


「光栄だ、というのは嘘ではありませんよ。人理を救うための戦いにおいて、最も活躍させてもらえているのですから。並みいる英霊たちの中で、本来、サーヴァントとして現界するはずのなかった天草四郎時貞という英霊が前線に立っている。これは確かに光栄なことでしょう?」

「そっか…じゃあ、14連勤とかでも光栄に思ってくれるか?」

「それとこれとは別です」

「おい」


それならば、このあと2週間に渡って控えている周回地獄で皆勤賞を取ってくれるかと尋ねてみたが、天草はけろりとそうのたまった。
軽くどつくと、天草はくすくすと楽しそうに笑う。

唯斗はそんな会話を、実は不思議に思っている。

母はおらず、父には存在を無視され、世話役の伯母に虐待を受け、挙句父による母を蘇生させる術式の生贄にされかけたような唯斗が、これまで誰かと笑いあったことなどなかった。
魔術師なんて大体そんなもので、正規の魔術師でなくともその家に生まれてしまった以上、唯斗にはこんな笑って話す相手など一人もいなかった。

これからもいないだろうと思っていたし、一緒にいることを光栄だと思ってもらえるような相手など想像もつかなかったのだ。

だから、こうして天草と何気ない会話をできていること自体が、途方もない奇跡のようにすら思っている。
そんな数奇な運命を辿っていることが、不思議でたまらなかった。



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