覆水盆に返らず−2
第一特異点から第四特異点に至るまで一緒に過ごしてきた天草との関係が、最初の機械的なものから、これまでの人生では考えられなかったようなコミュニケーションができる関係になったのに比例して、他のサーヴァントともある程度コミュニケーションが図れるようになっていた。
マシュはもちろんのこと、同じく倒されにくいということでしょっちゅう戦ってもらっているランサーのクー・フーリンや、特異点Fから協力してくれているキャスターのクー・フーリン、食堂で敏腕を振るっているエミヤやブーディカ、何かと世話を焼くロビンフッド、なぜか重い愛を向けてくる清姫、変な性癖のあるバーソロミュー・ロバーツ、比較的会話のできるバーサーカーであるベオウルフなどだ。
他にも多くのサーヴァントが、コミュニケーション能力の乏しい唯斗相手であっても、良好な関係になるよう優しく接してくれている。もちろん、意思疎通が難しい者や気難しい者もいるが、そうしたサーヴァントとは、マスター・サーヴァントという最低限のラインを維持していた。
唯斗とて、サーヴァントと仲良しこよしをしよう、とは思っていない。だが、閉鎖空間であるこのカルデアにおいて、良好な関係を保つことは重要だ。
何より、歴史というものに並々ならぬ思いを抱いている唯斗としては、歴史上の人物たちに少しでも生前の話を聞ければ、それだけであの爆発事故に巻き込まれなかった悪運を幸運と思えるようだとすら感じている。
そこで、ランサーやキャスター、バーソロミューなどコミュニケーションの玄人たちに助言をもらいながら、あまり話していない英霊や召喚したばかりの英霊に対して、少しだけ、自分から踏み込んだコミュニケーションを試みている。
多くの場合成功しているが、ヘラクレスのような英霊には最初から諦めている。アサシンのエミヤのような相手に対しても、ドライな関係の方がよさそうな人物であったため、自分から距離を近づけることはしていない。
そうやって、成功例と最初から試みなかった例だけだったからだろうか。
初めて明確に拒絶されたとき、自分でも驚くほどショックを受けてしまった。
「…おやめください、処刑人の手になど触れて、何になると言うのです」
新しく召喚されたサーヴァント、アサシンのシャルル=アンリ・サンソン。
唯斗にとっては、幼少時代を過ごしたフランスの英霊であり、グランドオーダーを通して大切な故国の一つとなっていた国を代表する人物の一人だ。
まずは握手を、と思って手を差し出した唯斗だったが、それに対しての拒絶の言葉に、唯斗は衝撃を受ける。
ひどく自分が英霊たちに甘やかされていたのだと実感したのもそうだったが、サンソンの拒絶は、処刑人であるという出自を考えれば当然だ。そこに思い至らなかった自分の甘さこそが、最も衝撃だったのだ。
「あー…悪い、配慮なかった」
「…いえ、こちらこそ非礼をお詫びします」
礼儀正しい紳士的な人物ではあるようで、アクアマリンの瞳は申し訳なさそうにしている。
次からはこういうことがないように気をつけよう、と思いつつ、唯斗はサンソンとの付き合い方を機械的ものにしようと決定する。
本当は聞きたいこと、話してみたいことがたくさんあった。何よりも、第一特異点で敵として戦ったサンソンに告げたように、サンソンがもたらした人権の価値観を引き継いだ現代欧州の話を伝えたかった。
ただ、それを押し付けるのは唯斗のエゴだ。サンソンが距離を望むなら、そうするべきだろう。
唯斗はいろいろと押し殺して、サンソンにカルデアの説明と施設案内を開始した。