後悔先に立たず−1
「覆水盆に返らず」の続き
コミュニケーション能力がなさすぎたがゆえに、少し人間不信気味になっていた唯斗が、クー・フーリン・オルタやディオスクロイたちのおかげでいくらか立ち直ってから、半月ほどが経過した。
いったんは落ち着いて、唯斗が自分をセーフティ装置とは思わなくなったのは良い変化だったのだろうが、とはいえ、根本的なものは何も解決していない。
唯斗はいまだに話しかけるのが怖くて及び腰で、結局、話さなくて済む相手をレイシフトで選びがちだ。それでも、以前からコミュニケーションが密に取れていたロビンやランサー・キャスターのクー・フーリンとはマシになった。
しかし、ことの発端となったサンソンやマンドリカルド、天草とはまだ何も話すことができていない。
ランスロットにしても、退去こそしないでくれているものの、あれから特に唯斗から話しかけられたわけではなかった。
自分を軽んじることがなくなっただけで、他者へのハードルは下がっていないのである。
そのため、今日も今日とて、唯斗はラウンジでディオスクロイたちと過ごしていた。
翌日のレイシフト打ち合わせを手短に済ませたあと、単にだべっているだけだ。
「…だめだ、やっぱ天草とかランスロットに話しかけられない」
「なんだ、まだあのエセ神父と愚鈍騎士にかかずらっているのか」
明日の編成は、範囲攻撃が可能なワルキューレとディオスクロイ、オルタである。セイバークラスの単体宝具が必要な場面で、ついディオスクロイを頼ってしまう。本当は天草の代わりになる者などいないため、ワルキューレでは倒しきれるか分からない。オルタはその打ち漏らしを想定してのアサインだ。
唯斗はテーブルに突っ伏してぼやく。
「今までは、俺はしょせんマスターっていう装置だから、って言い聞かせて、事務的な会話に没頭できたけど、逆にそれができなくなってて…レイシフトに呼ぶことすらできないっていうか…」
「確かに、戦略上は多様性があったほうがよろしいのは事実ですね」
ポルクスはいたわるように言ってくれるが、カストロはフンと鼻を鳴らす。
「そも、我らがいれば十分なのだ。あのオルタのケルトの御子もいれば事足りる」
「まぁそりゃ、ディオスクロイは攻守ともにできるから…正直1騎だけで大体はなんとかなるけどな。ポルクスの言う通り、幅を持たせることは重要だ」
カストロは唯斗の言葉に得意げにしている。唯斗の前での感情表現が随分豊かになった。
そのまま、カストロは乱雑に唯斗の頭を撫でた。
「案ずるな、貴様は俺が守ってやる」
「っ、なんか…このカルデアのふたご座生まれの運勢、ずっと1位になってそう」
「?俺が導きと加護をくれてやっているのはお前だけだ、他の者など知ったことか」
「…ッ、」
唯斗は顔に熱が集中するのを感じて、頭を撫でるカストロの手もあってどう言えばいいのか分からなくなる。
どう考えても、言葉だけ見ればまるで口説かれているかのようだが、この男に限ってそれはない。素でこの言葉が出てくるあたり、やはり神性を感じずにはいられなかった。
「どうしたマスター、顔が赤いぞ。さては、この俺の加護を受ける喜びに涙が溢れそうなのを堪えているな?よい、許そう。咽び泣いて喜ぶことを許すぞ」
そしてこの頓珍漢である。
ちなみにこういうとき、ポルクスは完全に気配を消している。同時に、なぜかにっこりと満面の笑みを浮かべているのだ。
ポルクス曰く、「刑部姫様とお話ししてすべてを会得しました」とのことだったが、きっとろくでもない。
まさか、この双子神とこんな距離になるとは思わなかった。数奇なこともあったものだ。