後悔先に立たず−2
第七特異点へのレイシフトを翌月に控え、一時的に停止していた新サーヴァントの召喚が再び始まった。
一時停止していたのは、唯斗のメンタル面の問題に加えて、単に触媒素材が不足していたという事情もある。リソース回収のためのレイシフトも一通り終えたため、再び召喚に臨むことになったというわけだ。
召喚ルームにやってきた唯斗は、少し緊張して召喚式を前に立つ。割り切れていた少し前までのほうが、楽だったのは確かだ。一方で、こうやって緊張しながらも新しい出会いを大切にしようと思うようになったことを、悪くは思っていない。
そうして詠唱を終え、青白く輝く召喚陣から魔力でできた霧が噴き出すと、こつり、という踵の音が響く。
霧の中から現れたのは、日本人らしき背の高い男性サーヴァントだった。唯斗より8センチ近くは背が高いのではないだろうか。
ノーネクタイのスーツの上に、内側がオレンジ色になっている厚めの長尺コートを羽織っている。帯刀しており、眦は一瞬だけきつかったが、唯斗を見つけてすぐに緩めた。
「…新選組三番隊隊長、斎藤一だ。親愛をこめて一ちゃんと呼んでくれ…いや、やっぱだめだ」
なんと、これまで天草以外に縁がなかった日本史のサーヴァントだ。それも、非常に近代の英霊である。
しかも、あの新選組の斎藤一だ。様々な英霊と出会ってあまり驚かなくなっていた唯斗であっても、少し驚いた。
「…で、あんたがマスターちゃんなわけね。へぇ、いい面構えじゃないの。あぁそうそう、僕ってば堅苦しいの苦手だからさ、そんな感じでよろしく」
フィンガーレスの手袋をした手で握手を求められ、唯斗は慌てて応じる。
「ここのマスターやってる雨宮唯斗だ、まさかあの斎藤一と会えるなんてな…その、俺もコミュニケーションは得意じゃないけど、よろしく頼む」
「世界の危機を救うマスターが未来の日本の子とはね、因果を感じるというか…」
大きな手は握手をし終えるなりすぐ離れる。一見、温厚な態度で応じてくれているが、どう見ても裏表ある人物だろう。日本における近代警察の草創期を支えたほどの人間なのだ、当たり障りない範囲を超えて近づくのは好ましくない。
するとそこに、扉が開いて別の人物が入ってきた。ディオスクロイたちだ。
「単体セイバーが霊基登録されたのを確認し、参上しました」
「この期に及んでまたも単体宝具のセイバーか。それも人間とはな」
どうやら同じポジションの英霊が現れたことを確認して様子を見に来たようだ。一目見るだけで格の違いは分かる、斎藤はディオスクロイを見て引いたようにした。
「いや、人間じゃない英霊なんているの、って言いたかったけどさ…マスターちゃん、ひょっとしてこのキラキラした人たち、人じゃないとか?」
「双子座の神だ」
「マジの神?」
「マジの神」
うへぇ、と斎藤は双子を見て顔をひきつらせた。本物の神がいるともなれば、特に近代の人間にとっては驚きを感じて当然だろう。
「…僕の出番、なくない?」
「当然だろう!われら以外にセイバーなど端から不要なのだ」
カストロはどや顔で言いながら、唯斗を後ろから軽く抱き寄せる。肩を後ろから抱き寄せて斎藤から距離を取らせている姿勢は、またも勘違いさせそうなものだが、これはカストロが斎藤にマウントを取りたいだけだ。
「…まぁ、実際には戦ってみてだけど、ディオスクロイの二人より攻撃特化、宝具バンバン打つ感じで戦ってもらう形になるだろうな。俺の魔力消費量も、さすがに神霊の二人より少ないし」
「妥当かと思います、マスター。兄様も、マスターのご無事を最大化するためにはあらゆる選択肢があるべきですよ」
「……フン、使えなければ俺が引導を渡してやろう」
ポルクスに諫められてカストロは敵意を引っ込めたが、きっと斎藤は内心、面倒なところに来てしまったと思っていることだろう。