brise de printemps−25
濡れた声で低く囁かれたフランス語は、直訳で「私の愛する人」というストレートな言葉だ。婉曲表現の多いフランスの恋人間の愛称において、数少ない直接的な言葉であり、だからこそ、伝える情熱の強さは最大値とされる。
もちろん、本来のカール大帝のフランク王国では、まだ古ゲルマン系の言葉とラテン語とが混ざり合っており、現在のフランス語が成立するずっと前だったわけだが、後世の伝説という側面で現界している以上、シャルルは現代フランスの価値観との親和性が高いようだ。
そんな言葉の熱量にさらに煽られて、唯斗は限界を迎える。
「シャルル、も、だめ…ッ、」
「俺も、そろそろ、やべぇッ!」
シャルルも果てが近いようで、さらに穿たれる腰の深さが大きくなり、その衝撃で押し出されるように、唯斗は果てた。
「〜〜〜ッ!!」
「く…ッ!」
シャルルもほぼ同時に唯斗の中で果て、中に熱いものが迸る。唯斗の腹筋には唯斗が出したものが飛び散り、視界が白むように霞んだ。
なんとか意識を飛ばすことはないまでも、喘いだことで酸欠気味である。
お互いの荒い呼吸が静かな部屋に満ちる。
ゆっくりとシャルルは自身を引き抜き、気が抜けたように唯斗の右側に倒れた。
「だぁ〜、すっげー気持ち良かった…唯斗、体大丈夫か?」
「ん…シャルルがしっかり解してくれたから、痛みとかはない…でもめっちゃ疲れた……」
そう答えてから、唯斗は右側のシャルルにそっと体を寄せる。胸板あたりに顔を埋めると、後頭部を優しく撫でられた。
「初めてなのに頑張ったな。ありがとな、最後まで受け入れてくれて」
「…、シャルルがうまかっただけだろ」
「相変わらず、褒められたときにどうすりゃいいか分からねぇって感じだな。誰にも認められたことがないから、そうなるのも仕方ないって今は分かる。でも、唯斗をそうした奴らが、ほんとはちょっと憎たらしい」
シャルルに言われたことは実感がなかった、言われてみれば確かにそうなのかもしれない。褒められても受け取れないのは、存在を否定されてきた唯斗にはハードルが高いことだったからなのだという。
「ま、それは俺がたっくさん褒めてやるから、すぐ慣れるだろ!」
「え…」
「まず頭がいいだろ、1言って10理解して100教えてくれるもんな。それに誠実。俺に対しても他の英霊に対しても、歴史への敬意に基づく誠意を示してくれる。何より優しい。藤丸やマシュのこと、なんだかんだ特異点の現場で一番考えてるのは唯斗だ。あとは…」
「ちょ、ちょっと待て」
突然小っ恥ずかしいことが始まったため慌てて止めると、シャルルは憮然とする。「もっとあるのに」と言いたげだが、キャパオーバーだ。
「…ま、しょうがねーか。あ、でもこれだけは言わせてくれ」
「……なんだよ」
「かわいい。すっげー可愛い」
「ッ!」
何かと思って顔を上げたのが間違いだった。至近距離でこちらを見つめる瞳がひどく甘やかで、ダイレクトにそれを受けてしまったため、顔に熱が集中していくのを抑えられない。
「もう世界一可愛い。俺の唯斗が可愛いぞー!って言いふらしたい」
「…死ぬ……」
恥ずかしすぎて憤死しそうだ。しかし、シャルルはくつくつと笑ってから、再び唯斗の頭を撫でて優しく言った。
「死なないさ。あんたが死ぬときは、大切な人に看取られて平穏な日々を穏やかに終えるときか、俺と逃げた先で、俺の腕の中ですべてに満足して逝くときだ」
「っ、」
「言ったろ?俺は唯斗を救うため、そして愛するためにここにいる。唯斗の傍に居続ける。そう信じててくれていいぜ!」
こうして体を繋げて、シャルルの本気をあらゆる角度で示してもらえて、唯斗は生まれて初めて、地に足が着いたような気がした。
今までの人生、常に一寸先は闇という状態で生きてきた唯斗にとって、何かを、誰かを信じられるのは、生まれて初めてだったのだ。
視界が滲んで、目元から零れたものはシャルルがそっと拭い取る。それによっていくらか明瞭になった視界には、シャルルの笑顔があった。
「…信じるよ、ずっと」
これまでの唯斗の人生がずっと冬だったのなら、シャルルはまさに、唯斗にとっての春そのものだった。