Sunset Undead−42


サッカーコート前で車を降りると、パーシヴァルを含む小部隊はライフルを構えて団地の方に向き直る。


「では私は行ってくる」

「気をつけてな」


パーシヴァルは笑顔で頷くと、マスクをしてフェイスシールドをしっかり留めて、兵士たちと歩き出した。飛沫を体内に取り込まないよう、露出は極端に控えている。
唯斗たちもサッカーコートに入ると、軍の医療用テントに入って、しばらく軍医を手伝う。
唯斗は治療中の兵士たちの様子を見たり、快方に向かう者からヒアリングをしたりして情報をまとめることに専念した。


そこに、怒号とともに兵士が担架に乗せられて運び込まれてきた。一気に緊張感が漂う。


「感染した兵士です!」

「っ、こっちへ!」


唯斗が手を挙げて示すと、臨床医もすぐにアタッシュケースをもってやってくる。
担架は血で染まり、兵士は口の端から血の泡を吹きながら絶叫していた。

ベッドに乗せられるなり、兵士たちは関節を抑える。竦んだ臨床医に代わり、唯斗が兵士に大きな声で問いかけた。


「噛まれた場所は!?」

「二の腕だ!右の!!」

「先生、右上腕部です!」


唯斗は臨床医に感染位置を示す。男性の臨床医は慌てて注射器をセットしつつ、「ど、どこに打てば!?」と聞いてきた。気が動転している。


「落ち着け、あんたが焦ってどうする!まずは右肩、次に右中殿筋!」

「わ、分かった」


臨床医は呼吸を落ち着かせてから、慎重に兵士に近づき、右肩に注射する。さらに右の太もも付け根あたりに移動したところで、唯斗はアビガン錠を8錠取り出す。


「無理にでも飲ませてくれ。先生、次は皮下注射だ。右肩、首筋の2か所」

「あぁ」


きちんと注射ができたことで臨床医は落ち着きを取り戻し、今度は筋肉注射から皮下注射に切り替える。
針を抜いた一瞬で、他の兵士が手袋をして錠剤を強引に飲ませる。吐き出さないよう、そして体液を外に出さないよう、無理やり口元をタオルでふさいだ。
なんとか嚥下したことで、兵士はこれで当初の投与量をクリアしている。

荒い呼吸を繰り返す兵士だったが、叫ぶことはなくなり、目の焦点がだんだんと定まってくる。関節を抑えていた兵士たちは恐る恐る離れ、代わりにベッドの拘束具を腕に装着した。


頭では理解していたが、やはりウイルスの増殖スピードが速すぎる。事前に予備服用していてこれだ。3200mgのファビピラビルを投与したが、これでも足りないため、ハイドーズでもう一度3200mgを投与する必要がある。本来は、一日目の投与量は3200mgまでであり、それ以上での服用事例を認可した国はなかった。今は倍を投与することにしている。
NERLID対策として、ハイドーズが許可されているのである。


そうやって時折やってくる感染した兵士への曝露後接種をいくつかの方法で行っていた時だった。
夕方になりつつある、太陽の少し傾いた時間。

突如として、耳をつんざくような爆発音が響いてきたのだ。


「なっ、」

「うわぁ!!」


臨床医は頭を竦める。ぐらりと地面が揺れて、衝撃波でテントが揺れる。

慌てて外に出てみると、ウルスヴィークスヴェーゲンの方から真っ赤な炎と黒煙が立ち上阿ったところだった。ここまで熱が届く。


「ガソリンスタンドが爆発した!!」

「軍用車列が吹っ飛んだぞ!!」

「穴を埋めろーーー!!!」


兵士たちの怒声が飛び交い、急発進した輸送車が大通りに向かう。どうやら通りの反対にあるガソリンスタンドが戦闘で引火し、大爆発を起こしたようだ。
それによって、通りで壁を作っていた車列がまとめて吹き飛ばされ、兵士も吹き飛び、防衛線にこれまでで最大の穴が開く。

すっと体の中が冷えるような感覚。ここまで大規模に穴が開いてしまうとなると、第二防衛線の復旧には時間がかかる。

テントを振り返ると、中には8人がベッドで横たえられている。怪我人も12名ほど。ガソリンスタンドはエールスヴェンゲン通りがウルスヴィークスヴェーゲンに接続するところにあるため、突破箇所までは道をまっすぐ行くだけであり、目を凝らせば、燃え上がる通りから感染者たちが歩き始めているのが見えていた。


「我々が国鉄の敷地の方へ感染者を誘導します、その隙に歩ける人たちは静かにロースタスイェン湖の方へ!」


兵士に誘導され、怪我人たちを一瞬見たが、兵士は唯斗の背中を軽く叩く。


「大丈夫、こういう事態は初めてではありません。ここは軍に任せて、あなた方は速く撤退を。あぁ、傭兵も来ましたよ」



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