華胥は隣に−1
王の黄飛虎×麒麟の主
十二国記パロ、CP薄めです。
この国は天帝に見放されたのだ。
そんな絶望の声を、唯斗は何度も聞いた。平時の3分の1以下にまで減ろうとしている人口、荒廃した国土、王宮すら廃墟と化したこの国に希望を見出すのは、あまりに難しい。
それでも、唯斗は穢れに病むことも厭わずに国の維持に努めている。
これは勝負だ。天帝がこの国を滅ぼすか、唯斗がすべての民を周辺国に避難させるか、どちらが先か。もはや王を見つけることすら諦めていた唯斗は、そんな勝負だとすら思っていたのだ。
***
この世界には12の国がある。
中央には神の住まう円形の島、黄海があり、黄海を囲む内海を隔てて、これをぐるりと取り囲むひし形の大陸がある。そしてひし形の大陸は頂点を東西南北に向けており、辺に向き合うようにして4つの島が周りに浮かぶ。
大陸は、ひし形の頂点部分にそれぞれ4つの国があり、その4つの国の間、辺部分を有するさらに4つの国、合計8か国に分かれている。4つの島は単独で1か国を形成し、合計12か国ということだ。
そんな大陸部、南西の辺に位置する国を才という。
首都は
揖寧。揖寧を擁する首都州は節州といい、節州を囲むように9つの州に国は分けられている。州の数はすべての国で同一である。
首都および州都には、文字通り雲を凌駕する高さの凌雲山という巨大な塔のような山があり、凌雲山はまたも文字通りの海・雲海の上に頂上が出るようになっている。雲海は地上からは見えないが、雲海の上からは本当に海として見えている。
山の頂上であり島のようになった凌雲山の山頂には王宮があり、揖寧山の山頂にある才の王宮は
長閑宮と呼ばれる。
朱塗りの柱が白亜の壁に映え、床には精緻な彫刻が施されたタイルが満遍なく敷き詰められている。すべての窓に美しい玻璃が嵌め込まれ、まさに天井の世界そのもののようだ。
しかし現在、長閑宮の主は不在である。当然、王宮の主とはこの国の王に他ならないが、その王位は空位なのだ。
通常、王はその国の国号をとって呼ばれるが、当てられる文字は異なる。才の王の場合は采王となり、これを国氏という。
采王はかれこれ1年不在にしているが、それはほんの些細な期間だ。
実はこの約100年間、才に王が在位した期間は僅か18年のみ。残る80年以上の期間は空位であり、それほど短命な王が間を置いて連続したことを意味している。
王というものは、麒麟という神獣によって決定される。正確には、天帝が王を選び、その天帝の意思が麒麟に本能として伝わり、麒麟は本能で王気を感じて天帝の代わりに王に王であることを告げるのだ。便宜的に麒麟が王を選ぶと言われる。
麒麟は世界の中央たる黄海に生まれ、仙女たちに育てられたあと、成獣してから王を選べるようになる。麒麟の性別はその時々であり、雄であった場合には国氏に麒を、雌であった場合には国氏に麟をつける。
唯斗は才の麒麟だ。そのため、
采麒という名を持つ。
この世界では、あらゆる命は木の実から生まれる。人や動物、植物だけでなく、妖魔・妖獣という怪物も含め、すべて木の実になるのである。
麒麟は黄海の捨身木という木に生まれ、これも国氏をとって呼ばれるため、唯斗が成った実は采果と呼ばれた。
人間には親がいるが、親は里の中央にある里木という木に祈って紐をくくりつけることで子の実を授かり育てる者をいう。
麒麟には親がおらず、また、子を願うこともできない。
そんな麒麟は王を選ぶために存在する生き物であるが、王の政治が道を間違え国が乱れると、「失道」という麒麟特有の病にかかる。麒麟の失道は王朝の終焉の合図であり、ほとんどの場合、麒麟はそのまま死に至る。その後、王も命を落とし、王朝は終わる。
王が死んでから少しして、黄海に新たな麒麟の実が生まれるのである。
唯斗は、実は一度王を選んだことがある。しかしその采王は僅か5年で国の運営に行き詰まり、唯斗は失道しかけた。采王は唯斗を案じて自ら王位を天帝に返還する「禅譲」を行って退位すると長閑宮を出て下界に降りていき、王宮には唯斗だけが取り残された。
本来なら新たな王気が見つかるはずだが、この1年、天帝からはなんの音沙汰もなく、唯斗は王探しよりも国家運営に全力を挙げている。