brise de printemps 2−1


brise de printemps続き
カルデアから逃亡するシャルルと主


カルデアはついに人理修復を成し遂げた。

時間神殿を攻略し、人類悪ゲーティアを打倒した。取り戻した人理に残ったのは、カルデアの人々と目を覚ました人類。しかし、その中にロマニの姿はない。

実はソロモンが受肉した存在であったロマニは、その権能を返還し歴史から自らを抹消することによってゲーティアもろとも魔術王としての力を喪失させ、それにより、ゲーティアは倒せる存在になったのだ。

しかし、人理修復の翌日、魔術協会は資料の回収のために一度カルデアに代表を送ってきたが、その際、唯斗の身柄の引き渡しを要求してきた。
案の定といえばそうだったが、唯斗を時計塔で拘束しておき、後日、カルデアとともにその沙汰を決定するということで決めたらしい。

もちろん、ロマニに代わって所長代理となったダ・ヴィンチは、アニムスフィアのことも次の所長のことも足りない人員のことも、何もかも決まっていないにも関わらず唯斗のことだけは決定するのかと猛抗議してくれたが、時計塔は聞く耳を持たなかった。


結局、唯斗はシャルルとともに、当初の予定通り、カルデアからの脱出を行うことになってしまったのだった。


***


「当面の食糧はすでに積んである。衣服と翻訳礼装もね。因果線の変更、聖杯の収納も問題なし。旅支度は完了だ」

「ありがとな、ダ・ヴィンチ」


地上階の駐車場に置かれたボックスカーのような中型車。一見すると普通の車に見えるが、これで水陸両用、太陽光パネルや燃料電池などの機能も搭載したダ・ヴィンチ渾身の車である。南極からアマゾンの森林、砂漠まで踏破できるとのことだ。
動力は様々なものを利用可能であり、ガソリンだけでなく太陽光発電、聖杯や大気中のマナ、唯斗の魔力など魔術的な動力源も利用できる。

シャルルは目を輝かせて運転席から出てきた。


「カッコ良いなこれ!さすがダ・ヴィンチちゃんだぜ!」

「かのシャルルマーニュに言われるなら私も作った甲斐があったというものだ。運転は問題なさそうかな?」

「おー、どんな機能があるのかとか、細かいところは覚えた」


シャルルはいつもの冒険者の装いではなく、白生地に柄つきのTシャツとジーンズというラフな格好をしている。ちなみに柄はQuickと緑でスタイリッシュに書かれている。
唯斗も、礼装ではなく濃紺のシャツと黒いチノパンという服装であり、ともに私服を着ている形だ。霊衣でも礼装でもない、ただの衣服である。


「二人も準備は終えているようだね」

「あぁ。いろいろと助かった」

「なに、これくらいしかできないことが、むしろ歯がゆいほどだ。本当は、きちんと元の暮らしに戻って幸せになって欲しかったものだけれどね。まぁ、彼氏と逃亡ライフというのも、なかなか悪くない響きじゃないか」

「だろ〜?」


なぜかシャルルが楽し気にして、ダ・ヴィンチは苦笑する。
そこへ、見送りに藤丸とマシュもやってきた。


「唯斗〜、本当に気をつけてね」

「どうかお体には気を付けてくださいね」


二人とも、少し涙目になってくれている。揃ってロマニのことで大きな傷を負った二人だ、こうして唯斗もカルデアを去ることになるのは、二人にとっても動揺があったことだろう。そう自分で思えることが、成長の証左であり、藤丸たちとの絆の証なのかもしれない。


「ありがとな、藤丸もマシュも元気で」


きっともう、カルデアの人たちと会うことはないだろう。それぞれスタッフたちは別の魔術師関係の仕事を探すだろうし、ダ・ヴィンチは退去し、藤丸は日本に戻る。
藤丸も監視対象となるはずであり、その場合、唯斗は逃亡中のため会うことはできない。


「…いろいろあったけど。お前らに会えて良かった」

「っ、私も、私も唯斗に会えて良かった、今までずっと、ありがとう」

「先輩…っ、はい、唯斗さん、先輩と唯斗さんがいたから、私は怖くても戦えました。本当に、ありがとうございました…!」


目元を拭う藤丸とマシュ。なんと声をかけたものか、と思っていると、シャルルが唯斗を抱き寄せる。


「ま、唯斗のことは安心してくれ。俺が必ず守り通すからな。藤丸とマシュも元気でやれよ」

「唯斗のこと、頼んだからね。絶対だからね!」


藤丸に念を押され、シャルルは「おう!」と快活に笑う。
そのあたりで、ダ・ヴィンチが駐車場の屋外への扉を解放する。


「さあ、天候が荒れないうちに南極半島まで辿り着くように、そろそろ出発だ」

「ダ・ヴィンチ、カルデアのこと、藤丸とマシュのこと、頼んだ」

「…もちろん!Bon Voyageだ、二人とも!」


最後ににっこりと笑ったダ・ヴィンチに頷き、唯斗とシャルルは車に乗り込む。唯斗は助手席に、シャルルは運転席に座る。もちろん、左ハンドルだ。スムーズにエンジンがかかり、シャルルは慣れたように、操作を開始する。
窓からダ・ヴィンチと藤丸、マシュに手を振り、最後にカルデアを一度振り返ってから、唯斗はフロントガラスの先を見つめる。吹雪ではないが、雪が舞っているいつもの曇天だ。


「…行こうか、マスター…いや、唯斗。ここからは世界のための旅じゃない、俺たちだけのための旅だ」

「うん…よろしくな、シャルル」

「こちらこそ!まずは早速、雪原を飛ばすとするか!」


明るい笑顔でずっといれくれているのも、カルデアと別れる唯斗のためのものなのだろう。どんな時も唯斗のことを考えてくれているのである。

シャルルは唯斗を守り通すと言ってくれたが、一方的にそうしてもらうだけでは気が済まない。
どうせなら、シャルルにもこの逃亡生活を目一杯、楽しんでもらいたい。そのためには、唯斗自身が、シャルルとともに道を切り拓いていかねばならないのだ。



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