Égalité−9


それから数日後、いよいよランスロットと会う日になった。
唯斗はルクセンブルク中央駅からICに乗ってブリュッセルを目指す。同行するのはサンソンとギャラハッドだ。ギャラハッドは少し緊張した面持ちである。当然だろう、唯斗だっていきなり父と会えと言われたらひどく動揺する。

3時間ほどして、問題なく電車はブリュッセル南駅に到着した。華やかなベルギーの首都ではあるが、建物の外観は綺麗でも街自体は正直汚い部類に入る。駅も質素で薄暗く、アントウェルペン中央駅のような美しさなどなかった。
人で混雑する駅の中、唯斗はサンソンたちを連れて待ち合わせをしているオルタ出口まで歩く。例によって改札はないため、シームレスに後者して出口まで着いた。

人混みの中、出口からやや構内に入ったところで止まる。そこでサンソンが口を開いた。


「ユーロスターの改札はEU市民でも時間がかかります。まぁ、もはや英国はEUではありませんが」

「もともと待ち合わせの時間より少し早いしな」


国境が自由化された陸上国境の国とは違い、英国は元からシェンゲン協定に加盟していなかったため、ロンドンと繋ぐ高速鉄道ユーロスターは空港のパスポートコントロールと同じ国境審査がある。荷物検査も厳しく、通過には時間がかかるのだ。
唯斗は硬い表情のギャラハッドに声をかける。


「…ギャラハッド、緊張してるか?」

「少し。随分と久しぶりに会話をするんで…」

「向こうも同じように思っているさ」


ICの車内に続き、意外とサンソンはギャラハッドと会話をしてくれていて、今もそうやって緊張を紛らわそうとしてくれた。唯斗には丁寧な口調を乱さないが、ギャラハッドには少し砕けた話し方をしているのもその一環だろうか。

それから少しして、ギャラハッドが「あっ」と声を上げた。
視線をたどれば、一際背の高い、見た目麗しい二人組の男性たちがやってきた。周囲の視線を集める美形二人はまっすぐこちらにやってきて、唯斗も営業のときのように表情をつくった。


「初めまして、ランスロットさんですね」

「初めまして唯斗さん、ランスロット・ベンウィックです。あなたはサンソンさんですね」

「はい、シャルル=アンリ・サンソンです。よろしく」


にこやかに握手を交わす。ランスロットは190センチを超えているだろうか、20歳になる子供がいるわりに若々しく見える。
隣に立っていた金髪の男性も前に出てくる。


「初めまして、私はガウェイン・オークニーと申します」

「ガウェインさん、初めまして。雨宮・グロスヴァレ・唯斗です。ガラティーン・インシュアランスで辣腕を振るわれているとお聞きしています」

「いえいえ、そんな」


ランスロットとともにやってきたのは、同じくキャメロットグループの保険会社である「ガラティーン・インシュアランス」で執行役員を勤めているガウェインだ。若手役員として社内改革に努め、保険会社として欧州でもトップクラスに成長させる原動力になったと言われている。
唯斗は仕事柄、日系企業の資産の移動先として英国領のタックス・ヘイヴンを選ぶこともあったため、英国の一大金融グループであるキャメロットグループとのやりとりは多かった。そのため人事にもある程度詳しい。あくまで取引先の情報レベルだが。

一通り挨拶を済ませ、ランスロットは無言のギャラハッドに笑顔を向けた。


「久しぶりだな、ギャラハッド。元気そうで良かった」

「……ええ」


たった一言しか返さずにそっぽを向いたギャラハッドに、空気が若干冷える。ただ、想定内だったため唯斗は話題を出そうとしたが、さすがというか、ガウェインが先に切り出した。


「よければディナーをいかがでしょう?ブリュッセルの高名なフレンチを予約しています」

「それは、ありがとうございます。あなたの選ぶ店なら、さぞ素敵なところなのでしょう」


当たり前だが、超高級フレンチとみていい。世界的大企業の役員が予約した店だ。恐らく、唯斗とサンソンを試すつもりだろう。最低限のマナーがあるのかどうか、こちらの人となりを判断するためのテストだ。
気持ちは分かるがやはり癪に障る。しかしこちらも資産階級であるため、問題はない。本題の前哨戦に高級レストランを提供してくれるというのなら、ありがたく受け取っておこう。



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